連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その12.地域ブランディングの成果、経済効果に加え地域に必要とされる価値創出というハードル~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

ペルソナの明確化で特定多数に訴求するマーケティングを

 新たな時代においては、マーケティングの原則も大きく変わってきています。「イイモノを、より高く評価してもらい(価値を極める)、何度も(御贔屓をつくる)買ってもらう、来てもらう」ことが重要になってきています。すなわち、価値を理解し、応援してくれる御贔屓(リピーター)を増やす時代になっているのです。

 言い換えると、マーケティングにおいては「量ではなく、価値を極めることを最大限に追求するべき」であり、価値を理解し育てていただける御贔屓を生み出せるかが重要なのです。これを、「特定多数」に訴求するマーケティングと言い換えてもいいでしょう。これまでの「不特定多数(誰にでも売りたい)」に向けてのマーケティングから、意味や価値を理解してくれる人に向かって、ペルソナを明確にしたマーケティングを行うことが重要なのです。

 玉造温泉では、観光地域づくりに取り組むまでは「みんなに向かって、良いお湯だから一度来てください」とプロモーションやイベントを行うことに終始していましたが、残念ながらなかなか来てくれずに衰退していったのです。玉造温泉の観光地域づくりでは、地域の関係者と協働でコンセプトを明確にし、特に「温泉水が美肌に大きな効果」が認められるところから、美容に最も敏感な若い女性に焦点を絞ってマーケティングを進めたことによって大きな成果を得ることができました。

 このような特定多数に向けてのマーケティングは、連載第4回に取り上げた熊野古道でも行われ成果を上げています。

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その12.地域ブランディングの成果、経済効果に加え地域に必要とされる価値創出というハードル~
サンチャゴと熊野の交流

 当初は、世界遺産だから「みんな来てください」とプロモーションしたことによって、団体観光客が殺到し古道の入り口の山道を歩くだけで「なんだ、ただの山道」ではないかとがっかりして帰り、地域にもお金がほとんど落ちない状況が起こっていたようです。そこで、DMCの(一社)田辺市熊野ツーリズムビューローが中心となって、熊野古道の価値をわかってくれそうな観光客に焦点を絞ってマーケティングを行うことにしたそうです。

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その12.地域ブランディングの成果、経済効果に加え地域に必要とされる価値創出というハードル~
踏破賞のバッチ

 具体的には、コンセプトを「巡礼の道」として、熊野を巡礼するという価値を理解してくれるであろう「欧・米・豪」の人たち、中でもFIT(個人客)だけにフォーカスし受け入れ体制やロジスティックスを整備したのです。

 実際の事業として、スペインの巡礼の道として世界遺産に登録されているサンチャゴ・デ・コンポステーラ市観光局と共同プロモーションを行うことや、二つの道を踏破すると写真にある記念バッチと踏破賞をもらえるなどのインセンティブが与えられています。

 その結果、すでに2,000人を超える人が踏破し、直近では田辺市在住の85歳の男性が踏破をするなど大きな話題となっています。

 この一連の事業の結果として、昨年にはロンリープラネットが選ぶ世界で行くべき場所に紀伊半島が日本で唯一選ばれるなど、客数の増加だけではなく巡礼の道として信頼を獲得し、ブランド化が果たされていると言っていいでしょう。

新しい時代のコアコンピタンスを見つけよう 

 この連載の最後、時代は令和に入りました。地域においても、またマーケティングの世界でも大きな変化が起こっています。「令和」という文字を分解し、意味を考えてみると、令はうるわし、禾は稲の稔った形、そしてお金を意味します、それ(うるわしい米)が口に入ると読めますね。
 
 そして、和と言う言葉は明治以降「和風」などと言うように「和=日本風」と言う意味に使われてきました。マーケティング的に言い換えると、かつては「洋風」が本物、進歩的で良いもの、「和風」は遅れている一段下のものとして使われ、欧米・近代化こそが本物で、憧れを煽るマーケティングが主流となっていました。
 
 しかし、時代は変わり風土に立脚した各地域の文化が評価され始めています。日本の国土は南北3,000キロメートルにもわたります。そこには多様な自然や歴史、文化が存在しています。
 このような各地域の多様性の中にコアコンピタンス(地域の優位性)を見つけ、地域ブランド化を進めることがいいでしょう。
 
 かつて聖徳太子は、十七条の憲法で「和を以て貴しとなす」と謳いました。文字通り、マーケティングの世界でも「和」すなわち相互理解と協働によって稔りを手にする時代が来たのではないでしょうか。

<連載第1~11回はこちら>
 その1.市場競争」の中でブランディング事業を行うということ
 
その2.ブランディング、なぜ必要?「目的の共有とブランド定義づくり」のハードル
 
その3.あいまいな「ブランディング成果」というハードル
 
その4.「地域らしさ」の共有ハードル、地域ブランドづくりで大切なのは魅力ある地域らしさ
 
その5. 先進事例に倣うなら、「モノマネ」より「コトマネ」で、というハードル
 
その6. 地域ブランドづくりにとって役に立つ「マーケティング」という大きなハードル
 
その7. 地域ブランドづくりに必要な「コンセプト」~地域ブランディングに取り組む上での大きなハードル「コンセプトの共有」~
 
その8. 地域ブランドづくりに必要な「デザイン」の働き ~そのデザインで、伝わりますか? らしさを「伝える」と言うハードル~
 
その9. 地域ブランドづくりにとって大切な「ネーミング」 ~名前がついていますか、それで魅力が伝わりますか~
  
その10. 地域ブランドづくりは、知的財産制度の活用で守りを固め、攻めの戦略づくりと両輪で行う~知財制度、上手く活用していますか~
その11. 旧態依然のマーケティングDNAというハードル~マーケットの変化に対応した観光地域づくり~

著者プロフィール

福井隆

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

「地域で生きる希望をつくる」―地域の文化風土を活かした、持続可能な経営支援―

地域支援・事業化支援アドバイザー・地域ブランドファシリテーター
・地域ブランディング戦略作成支援
・観光地域づくり支援
・ステークスホルダーの合意形成支援

「地域で生きる希望をつくる」をモットーに、持続可能な地域をつくるための支援活動を行っている。地域の内発的な計画づくりの支援、地域資源を活かした魅力的な事業計画づくり、観光地域づくり支援、地域の人材育成支援など。
E-MAIL:kinari104@gmail.com

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