連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その12.地域ブランディングの成果、経済効果に加え地域に必要とされる価値創出というハードル~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その12.地域ブランディングの成果、経済効果に加え地域に必要とされる価値創出というハードル~
観光客でにぎわう玉造温泉での夏まつり

観光地域づくりでの成功例

 次に、観光地域づくりにおいて文字通り「地域づくり」に貢献している事例を探すと、連載第3回で紹介した玉造温泉が注目されます。観光地域づくり事業を進めた結果、入込客数が100万人を超え地域にさまざまな効果をもたらしました。とりわけ人口の増加が著しく、10年前には6,200名ほどであったのが約7,000名に増加し、明治時代以来の人口に旧玉湯町は復活しました。

 加えて、地域に対する質的な価値創出として地域住民の意識の変化が起こり、町のイメージ(温泉街は色街のイメージが強かった)が格段に良くなったことを取り上げたいと思います。

 観光客が大きく増加したことによって、受け入れ側の意識は大きく変化したと言います。意識の変化から、温泉街のスタッフや住民が通勤の際にごみを拾うことや、ボランティアで川の清掃を率先して行うようになり、町が明るく住みやすいイメージに変わりました。休日には地域住民が散歩し、若い母親がベビーカーを押し、無料のお茶屋でお弁当を広げる姿などが見られるようになっています。同時に、このようなイメージの変化により、近隣の多くの人にとっても住みたい町となっているようです。

 10 年前の住民意識は、玉造温泉への愛着が薄かったようですが、温泉街を若い女性観光客が歩くようになることによって、「これだけ観光客が来てくれてうれしい、誇りに思う」と多くの住民が話し、意識の変化から大きな成果につながったのです。これは、「美肌・姫神の湯®」という観光地域づくりのコンセプトの実現によって、楽天トラベルの「春休み 若年層のグループ旅行に人気の温泉地ランキング2017」で1位を獲得するなど、若い女性たちが多く訪れる温泉観光地ブランドとなったことなどにも成果が表れています。

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玉作湯神社の参拝が人気の様子

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その12.地域ブランディングの成果、経済効果に加え地域に必要とされる価値創出というハードル~
小学校の整備計画も進

 近隣施設への効果としては、玉作湯神社の参拝手法をコンセプト(美肌・姫神の湯®)に基づきプロデュースしたことによって、かつて年間100名ほどしかなかった参拝客が今では20万人以上に達し、神社でのお守り購入やお賽銭による直接的な経済効果を上げています。

 同時に、このお守りの制作を地域の障害者福祉施設に委託し、通常では1~2円で委託されている加工賃を100円近くに引き上げ、障害者施設への経済波及効果(年間約1,000万円)と障害者の社会参画にも貢献しています。その結果、人気のなかった施設が入所待ちになっているそうです。

 そして、このような成果から子どもが増え、年間50~60名ほどだった新生児の誕生がこのところ90~100名と倍増し、小学校が新たに整備されることになりました(令和3年4月開校予定)。加えて、この小学校の建物は地元産材による木造の校舎になることが決まり、近隣の山から木材が伐り出される経済波及効果も大きなものとなると想定されています。

 この玉造温泉の観光地域づくりにおいて重要だったのは、地域づくりのプロセスの重視と関係者の合意形成の基軸になるコンセプトの存在です。観光振興から観光を手段とした地域づくりに舵を切り、地域住民の参画による事業計画とその実現に向けて「まちづくりのテーマ」という言い方でコンセプトを立ち上げ、丁寧な合意形成によって「美肌・姫神の湯®」の実現にぶれないで取り組んだことが大きな成果につながったと言えるでしょう。

 地域ブランディングにおいて地域に必要とされる価値を生み出すために、このような地域の人々の合意形成とそのプロセス、そして事業をぶれずに協働で行うための「コンセプト」、そしてコンセプトに基づき焦点を絞った誘客・整備が重要であることが玉造温泉の成果から見えてきました。

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