連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル ~その6.地域ブランドづくりにとって役に立つ「マーケティング」という大きなハードル

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

2018.10.25島根県福岡県

福井隆 地域ブランド 久留米まち旅
久留米まち旅は、スニーカーづくりや飲み歩きツアーなど80本のプログラムがある。写真は「櫨並木ともみじ寺へ 紅黄金色の散歩道」で巡る櫨並木

前回は、市場変化に対応した地域ブランドづくりを行うためには、安易な「モノマネ」は避けた方が良く、地域にあるものを活かし「コトマネ」するのが良いことをお伝えしました。今回は、地域ブランドづくりにおいて最も重要な「マーケティング」についてお話をしたいと思います。

大切なのは「行ってみたい」を作り出すマーケティング

 マーケティングと聞くと誰しもが思い浮かべるのは、消費者ニーズに沿って商品開発や販促(プロモーション・PR等)・販売を行うことです。すなわち、いくら良いモノでも生産側の都合だけでは売れないので、使う側、購入する側のニーズを調べ、それに沿って事業を行うことが重要だということです。しかし、これだけで良いのでしょうか。

 市場にはモノや情報があふれている時代、個人の嗜好も大きく変わってきているため、顕在化するニーズを捉えるだけでは上手くいかなくなっています。物販でも観光でも同じです。

 例えば、冬になったら消費者は「カニを食べたい」だろうからと、カニをキラーコンテンツとした旅行商品の開発・販促・販売をするのが常態化しています。このような従来型のマーケティングは一部の地域では有効でしょうが、新たな地域でカニを基軸に来ていただこうとしても、なかなか上手くいかないのではないでしょうか。

 また、前回お話をした「モノマネ」商品開発についても、消費者ニーズ重視の姿勢からマーケティングリサーチを行うと、例えば「食べたいものは何ですか」という調査等では、その時人気の食べ物が上位に上がることから全国各地で同じような二番煎じの商品がつくられてしまいます。全国でご当地素材を利用した「生キャラメル」ブームが起こったのは記憶に新しいのではないでしょうか。

 マーケティングリサーチは重要ではあるのですが、リサーチから新しい需要は見つけにくい時代になっています。特に観光マーケットではこれが顕著で、仮に「どこに行きたいですか」と問われ、「有名なハワイに行ってみたい」あるいは「テンションが上がりそうな知らない土地に行ってみたい」などと応えられても、何を準備(商品開発)すれば良いのかが分かりません。そのため少しでも人が訪れ話題になると、うちでもやってみようとなります。

 例えば、トリップアドバイザー等の情報サイトにおいての訪問先人気ランキングで、伏見稲荷が外国人に人気となっていることから、赤い鳥居の神秘性に魅かれているようだと分かると、全国で赤い鳥居を打ち出した誘客PRが盛んに行われます。

 少し考えれば分かることですが、多くの外国人は伏見稲荷に行きたいのであって、全国に存在する似たような赤い鳥居を見たいとは思っていないのです。これも前回お話をした、そのままマネをしても上手くいかないという典型ではないでしょうか。

 大事なことは、「行ってみたい」をつくりだすマーケティングなのです。

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