連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル ~その5.先進事例に倣うなら、「モノマネ」より「コトマネ」で、というハードル

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

地域ブランド 福井隆
「里山サイクリング」は、「里山のありのままの暮らし」を分かりやすく表現・体現するため「サイクリング」という手段を選択して成果を上げている(岐阜県飛騨古川)   写真提供:飛騨市観光協会

 前回は、「地域らしさ」を活かし信頼を得ることが、モノが売れる、人が来てくれる、価値を生み出す源泉であることについて述べました。今回は「地域らしさ」を大切にすることが大事だとわかっていても、他の地域で上手く行っているとついそのままの形で「モノマネ」をしてしまうという、陥りがちな罠についてお話をしたいと思います。

狙うのは「二匹目のドジョウ」じゃない

地域ブランド 福井隆

 結論から言うと、地域ブランドづくりにおいて安易な「モノマネ」は避けた方が良く、地域にあるものを活かし「コトマネ」するのが良いということです。

 どういうことかと言うと、流行りや市場のトレンドに乗ることは「手段」としては良いのですが、先例をそのまま「モノマネ」してオイシイ果実を狙っても、「二匹目のドジョウ」はほとんどいない、仮にいても長続きしないということなのです。

 つい数年前、地域づくりで大流行したのは「ゆるキャラ」や「B級グルメ」でした、特産品開発に目を向けても「食べるラー油」に「生キャラメル」、少し古くなりますが「ご当地バーガー」や「ご当地どんぶり」など、各地で開発のための協議会などがつくられ事業化されましたが、いずれもどこかへ行ってしまいましたね。

 そのような中でも、2011年の東日本大震災の翌日誕生した「くまモン」が、2016年の段階で関連グッズの売り上げ1,280億円、そしてパブリシティー効果も高いと聞くと、担当者は「ゆるキャラ」に取り組まないのは仕事をサボっているように感じるのではないでしょうか。

 「モノマネは止めよう」と言っても、このような実績を見せられればつい真似をしたくなるのも分かります。

 この「くまモン」は、熊本県のPRのためクリエィティブディレクターの水野学氏によって生み出され、熊本県の担当者の努力もあってか熊本の宣伝に大きな効果をもたらしました。

 しかしながら、全国で追従された「ゆるキャラ」を見ると、例えば大阪府では全盛期92体もあったゆるキャラの内、「もずやん」を残し他のモノは活動を自粛したというニュース(MBSニュース)が伝えられているように、ブームも下火になりました。

 同じように、少し前にはなりますが、地域づくり、地域ブランドといえば「葉っぱのビジネス」の徳島県上勝町が大きな話題となりました。文字通り、料理のいろどりとして「葉っぱ」が商材となり、地域に大きな経済効果をもたらしました。同時に、上勝町といえば「葉っぱのビジネス」の町として、他の地域がマネをしても勝てそうにもないほどの、葉っぱブランドとして市場に定着しました。

 実際に現地で、事業責任者とも情報交換をしたことがあるのですが、全国から多くの視察が訪れ「葉っぱがお金になるのなら、わが町でも真似をしよう」と取り組まれた地域が複数あったようです。しかしながら、責任者曰く「上勝町の資源(豊富な山里の葉っぱ)や高齢者の知恵(ふかし花木の技術)を活かしている、上勝町に相応しい取り組みだからこそ成功した」のであって、どんな地域でもできるわけではないようです。同時に、仮に葉っぱのビジネスに参入するとなれば、上勝町との市場競争が待っているのは当然ですね。

 責任者の方は「視察に来ていただき、考え方(コト)を真似してもらいたいと思って受け入れていた」とも話していました。すなわち、優位性のある地域資源を上手く活かすことを事業としてやってきた、そのコトをマネして欲しかったのですね。

 具体的には、それぞれの地域が足下を見直し、あるものを活かして価値を生み出すことが重要なのです。例えば、離島であれば海岸にたくさんある海草を「刺身のつま(いろどり)」として商品化する「コトマネ」ができるのではないでしょうか。そうすれば、山のいろどり上勝町、海のいろどり○○町になれたかもしれない、ということです。

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