連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル ~その5.先進事例に倣うなら、「モノマネ」より「コトマネ」で、というハードル

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

「四万十川の水」を地域らしさの魅力の核に (株)四万十ドラマ

地域ブランド 福井隆
東京駅で売られるほどの人気である「しまんと緑茶

 高知県の中山間地、四万十町に株式会社四万十ドラマという四万十川流域の資源を活かしたモノヅクリで、実績を上げてきた会社があります。

 この会社のHPには「物品販売/地元の農林業の素材にこだわります」「商品開発/四万十川に負担をかけないものづくりをします」と謳われています。(株)四万十ドラマでは、「お客様に地域の背景を丁寧に伝える(四万十川の水に活かされてきた流域の暮らし)」×「もともと地域にあるものの組み合わせ」という考えで商品開発を行い販売をしてきました。

 例えば、2002年に開発販売され、今では東京駅の地下売店でも販売されるほどの人気商品になっている「しまんと緑茶」というペットボトル飲料があります。合同会社広井茶生産組合で製造されている「しまんと緑茶」は、今でこそ有名になっていますが、当時はこの産地の茶葉の多くは静岡茶の原料として出荷されていたそうです(六次産業という言葉もなかった時代、JAを通じて原料を出荷し換金するのが普通の農産物産地でした)。

 写真のペットボトルを見ると「じつは茶所」「四万十川水系」「しまんと緑茶」「四万十茶葉100%使用」「手刈り」と謳われています。

地域ブランド 福井隆「答えは水の中」

 発売当時、全く知られていなかった産地の茶葉を「じつは茶所」と表現、加えて日本最後の清流として認知度の高い「四万十川の水」を「地域らしさ・魅力の核」として掛け算し打ち出しています。同時に、河岸段丘の狭い圃場で機械化もできず人の手によって摘まれていた茶葉も、「手刈り」として魅力ある要素として伝えています。

 全く知られていなかったお茶の葉の産地に、有名で魅力ある四万十水系の水を掛け算し、同時に丁寧な作り方という魅力を訴求しているわけです。

 実はこの会社は、「四万十川の水」こそが地域らしさの魅力の核であることを基軸に据え、事業を行っています。写真の書籍「答えは水の中」を見てください。これは、(株)四万十ドラマが1998年に出版したものです。内容を見ると、著名人に「水を語って」もらっており、日本「最後の川」の流域で生きていく覚悟を語っているように見えます。四万十川の水こそ、この地域の暮らしの礎であり、このことを大切にして事業を行っていく宣言のような本になっています。

 (株)四万十ドラマは、このような考え方を基軸に商品開発・販売を行っているということです。

 この考え方を象徴する商品開発が、10年程前に行われました。それは、かつて盛んであった栗の栽培に着目し、あらためて産地化を目指す取り組みです。その背景にあるのは、里山の荒廃が川の荒廃につながるのだからこそ栗林を活かす必要があるという、「水を大切にする生き方」から導かれた商品開発でした。かつて500トンもの栗を出荷していた産地が、たった30トン、約17分の1まで減少し荒廃が進む里山の栗林再生を図ることによって、四万十川の豊かさを再創造しようというわけです。

 多くの産地で、中国などからの安い商品の輸入拡大によって、産地が荒廃し圃場が荒れているという状況が知られています。ここでは、このことこそ地域の良さが損なわれることにつながっている、すなわち山間地にある栗の圃場が荒れれば四万十川の豊かな水にも悪い影響を与え、美しい風景や暮らしの豊かさも阻害されることを問題にしたのです。

地域ブランド 福井隆2007年に商品化され大ヒットしたしまんと地栗

 この写真にある「しまんと地栗」(7~8粒で3,500円)は、2007年に商品化され大ヒットしました。農家が大粒の栗の渋皮を丁寧に剥き、甘く煮た渋皮煮です。通常の企業であれば、渋皮を剥く作業は効率が悪いため薬剤で溶かしてしまうのですが、ここでは「四万十川に負荷をかけない」というコンセプトに従って、一個一個農家が渋皮を手で剥き、丁寧に商品化されました。一粒500円近くの高級品として販売されたのですが、人気商品となりました。おそらく、これを購入する人たちにとって「しまんと」という地域の商品開発の考え方が大義となり、手に取ってもらえたのでしょう。

 加えて、ここではただ商品化を行うだけでなく栗の圃場再生のため「栗の植樹一万本プロジェクト」として、クラウドファンディングや栗の木のオーナー制度などを通じて圃場の再生も行い、将来は10億円規模の産業になるよう構想を立て事業化を図っています。

 (株)四万十ドラマは、四万十川こそが地域らしさの核であると、水と共にある暮らしを基軸として地域ブランディングに取り組んでいる会社なのです。

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