連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル ~その1.「市場競争」の中でブランディング事業を行うということ~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

2018.04.25

 「地域づくり」は、行政や政治の仕事だと日本では長く思われてきました。しかし、このままでは多くの地域がなくなってしまう、と言われています。ほんとうでしょうか。残念ながら、昨年発表された日本の将来人口推計では、200年後には日本の人口が約10分の1近くにまで減少するという、衝撃的な数字が示されています。実際に私は、この15年間にわたって日本の各地で地域づくりの支援をさせていただきましたが、この人口推計を見ると、そうかもしれないと思ってしまいます。このままでは、条件不利地域を中心に多くの地域で跡を継ぐ人がいなくなり、次の世代に地域の暮らしを受け渡すことが難しくなっているというのが、残念ながら実感です。

地域ブランド 福井隆
日本の総人口は急激に減り続ける

地域ブランド 福井隆 馬路村 柚子
馬路村は、柚子の村として成功

 しかしながら、悲観する必要はありません。葉っぱのビジネスで有名な徳島県の上勝町(かみかつちょう)や、柚子のポン酢を活かして村そのものがブランド地域になってきた高知県の馬路村(うまじむら)だけでなく、ブランディングによって元気になってきた地域がたくさんでてきています。条件不利にもかかわらず、多くの若い人が移り住み話題となっている島根県の離島にある海士町(あまちょう)も、最初のきっかけは「サザエカレー」と「春香という夏牡蠣」、そして特産の「シロイカ」のブランド化から島が元気になっていきました。そして海外に目を移すと、グローバル経済に目を奪われがちになりますが、例えばイタリアの地域ブランドの雄である「パルマの生ハム」は、ランギラーノ村という400メートル×2キロの小さな村内だけでつくられ、上代ベースで1,665億円もの年間売り上げを誇っています。また、DMO主導で観光地域づくりによってブランディングが進められてきたワイン産地、アメリカのナパヴァレーでは、地域への経済波及効果が1年間で1兆4,300億円もあるそうです。

 大きなチャンスがやってきているのではないでしょうか。ブランディングと言えば、大手の企業や広告代理店にとって有利な手法だと思われていましたが、地域発の事業体に有利な状況が生まれてきています。今あらためて「地域性」をうまく活かす地域ブランディングを行うことによって、市場競争を勝ち抜くことができる時代となってきました。これからの地域づくりにおいて、地域ブランディングは観光地域づくりや地域の特産品開発・販売においてとても効果のあるやり方です。実際に、2018年4月1日に交付決定された地方創生交付金事業において、全採択事業601案件の内、ブランド化推進の事業が138件、加えて観光地域づくりであるDMO等の事業は142件にも上ります。これは、地方創生事業の約半数です。地域ブランディングがうまくいくかどうか、それが地域づくりの成否を握ると言っても良いでしょう。

 しかしながら、これまで多くの地域でのブランディング支援の経験から、多くの越えなくてはいけないハードルがあることも実感しています。地域の人々が、次の世代に暮らしをつないでいくため、その望みをかたちにするためにも、ブランディング事業や観光地域づくり事業を成功させる必要があります。ここでは、地域づくりに携わり前向きにがんばっている人たちを応援する視点で、12回にわたって越えるべきハードルについて書いてみたいと思います。

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