連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル ~その1.「市場競争」の中でブランディング事業を行うということ~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

2018.04.25

ここ、だいじ! ハードルその① ~事業体制~

地域ブランド 福井隆

 まず、地域に入って最初に感じることは、事業の責任者が誰なのかわからないケースが多いことです。もちろん、交付金事業などによってブランディングを進める補助金事業推進の責任者は明確なのですが、その中身であるブランディング事業や観光地域づくりを進める体制が機能しないケースが多いのです。分かりやすく言うと、協議会などの責任のあいまいな事業体がブランディングを進めるケースが多いということです。言い換えると、補助金による事業は仕様書に沿って単年度ごとに進められるのですが、どうしても地域ブランディングの目的である「モノを売って地域経済を活性化する、あるいは人に来てもらって地域に必要な価値を生みだす」ことより、「仕様書通りに進めること」そのものが事業目標になってしまうようです。同様に、単年度の成果を重視するあまり、ロードマップ(中長期の事業計画)や事業コンセプトに沿って取り組む中長期的な事業推進が苦手なようです。すなわち、地域ブランディングを進める上で、最初のハードルは事業推進体制をうまく組み立てられるかどうかです。これがうまくできないと、成果が上がるまでには時間がかかるブランディング事業を進めるのは難しいと思うのですがいかがでしょうか。先ほど紹介したナパヴァレーでは、DMOによる事業体制をつくり50年もかかって大きな成果にたどり着いたそうです。

地域ブランド 福井隆

 私は地域に入ったときによく、誰が事業責任者ですかという質問をさせていただきます。そうすると、「責任者は首長です」あるいは「組合長」ですという反応が返ってくるのですが、はたして事業体制としてうまく機能しているでしょうか。

 ある時、こんな経験をしました。ある地域で果実のブランディング支援を行っていたのですが、プロモーションのポスターを制作する段階になって、合議制の協議会だったためなのか内容がなかなか決められませんでした。その理由は、誰もが文言等の責任を取りたくないということでした。具体的には、この地域独自の栽培方法の文言に対して問い合わせがあってもうまく答えられないという理由から、その表現はやめて欲しいということでした。

 もう一つ、こんなこともありました。ある水産物のブランド化をお手伝いしていて、産地偽装によって信頼を損ねてしまったため、偽物をなくすため商品の定義(ここで採れたもの)を決めようとしたところ、ブランド事業を積極的に進めていた組合長が選挙によって敗退し、その後事業はうやむやになってしまいました。このようなことは、観光地域づくりにおいてはもっと深刻だと感じます。

 ある地域での観光地域づくりの支援において、明確なコンセプトに基づき旅行商品の造成を行い事業化しようとしたところ、「わが町にはあれもこれも良いところがあるから、プロモーションでは全部パンフレットに取り入れてほしい」と地域の有力者から指示があり、事業の内容がぶれてしまったことがありました。これは特殊なことではなく、多くの事業で壁になるハードルです。地域の公益のための事業を進めると、どうしてもどこかで公平性の担保という原則にぶつかります。しかし、観光客の立場から見れば、観光パンフレットにはお勧めの店を載せて欲しいのは明確ですが、公平性を担保するあまり手を挙げた全部の店を載せてしまうことになるのでしょう。ここで明らかなことは、ブランディング事業おいては「魅力ある“らしさ”」に焦点をあてて事業推進を図る必要があるということです。あらためて、地域ブランディングによる地域づくりは公益事業だと思うのですが、市場競争の中で行う事業であるという認識を持ってほしいのです。最初に書いたように「地域づくり」は長く行政の仕事としてなされてきたことから、市場競争の中での事業であることの認識が薄く、いまだ公益性を過度に重視し「公平であること」にしばられたブランディング事業をたくさん見てきました。ここに大きなハードルが存在しています。

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