連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル ~その1.「市場競争」の中でブランディング事業を行うということ~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

2018.04.25

 いかがでしょうか、ブランディング事業において最も重要な事は、対象とする相手に「ブランド化をしたい地域あるいはモノ」に、共通の魅力あるイメージ(らしさ)を持ってもらうことです。そのためには、事業として戦略的に取り組む責任の明確なブレナイ事業体制が必要なのです

にし阿波 地域ブランド 福井隆
にし阿波の山の暮らしをブランディングするDMO

 少し、具体的な事例を見てみましょう。観光地域づくりにおいては、DMOがこのような機能を持つことになっています。例えば、徳島県三好市をはじめとする2市2町が設立したDMOである(一社)そらの郷は、平成20年に「にし阿波観光圏」が観光庁から認定され、積極的に観光地域づくりに取り組むための事業体として平成23年に設立されました。この事業体(DMO)によって、「千年のかくれんぼ」という平家の落人集落の歴史や世界農業遺産の急傾斜地農業をうまく活かした事業コンセプトが作成され、特にインバウンド需要を取り込んだ旅行商品の造成と販売で大きな成果を上げ始めています。この事業の営業責任を担う事務局から、「このコンセプトは100年変えない」という言葉を聞かされました。この社団法人のHPには次のような事業目的が示されています。 「剣山に代表される山の資源と四国三郎・吉野川の資源の恵みを育んだ農業等の暮らし、歴史文化、伝説を基に独自ブランドの確立を目指します。このため、(一社)そらの郷が観光地域づくりプラットフォームの役割を担って、関係4市町のそれぞれ独自の農林業(食)、自然・環境、歴史文化資源を総合的に組み合わせ、民泊による体験型教育旅行やインバウンドの受入を推進します」  ここで重要なことは、DMOが中心となって事業を行ってはいるのですが、県の総合県民局や観光関係業者等が協議会を組織し、合意形成を図りながら役割分担の中でブランディングを進めていることです。具体的には、DMOが旅行業の免許を取得し、専門性を備えて商品の造成やプロモーション、販売、受け入れまでを責任の所在が明確な形で事業を行っており、県民局は地域との調整や書類申請等、観光業者は施設整備やインバウンドの受け入れ体制づくりなどを行っています。つまり、DMOが中心となって「千年のかくれんぼ」というコンセプトに沿って商品の造成・販売等の事業を行い、並行して地域の関係者が同じ方向に向かってブランディング事業行っているのです。言い換えると、地域の総合力を発揮する仕組みがうまく組み立てられていると言って良いでしょう。多くの地域でDMOによる観光地域づくりやブランディング事業が始まっていますが、DMOやブランド協議会ができればうまくいくのではありません。大事なことは、中長期的な視野を持ってブレナイで続けられる責任ある事業体制を整えられるかどうか、これが地域ブランディングの成功への第一歩です。

著者プロフィール

福井隆

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

「地域で生きる希望をつくる」―地域の文化風土を活かした、持続可能な経営支援―

地域支援・事業化支援アドバイザー・地域ブランドファシリテーター
・地域ブランディング戦略作成支援
・観光地域づくり支援
・ステークスホルダーの合意形成支援

「地域で生きる希望をつくる」をモットーに、持続可能な地域をつくるための支援活動を行っている。地域の内発的な計画づくりの支援、地域資源を活かした魅力的な事業計画づくり、観光地域づくり支援、地域の人材育成支援など。
E-MAIL:kinari104@gmail.com

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