連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その11.旧態依然のマーケティングDNAというハードル~マーケットの変化に対応した観光地域づくり~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

2019.04.22長野県

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その11.旧態依然のマーケティングDNAというハードル~マーケットの変化に対応した観光地域づくり~
村が丸ごと棚田群になっているジャテルイ

 次に、インドネシアの中でも人気のディスティネーションである「バリ島」を見てみましょう。バリのコアコンピタンスは、「スバックシステムに支えられた稲作とヒンドゥー教に基づく暮らし」と言ってよいでしょう。右の写真は、2012年に世界遺産に登録されたジャテルイという、村が丸ごと棚田群になっている場所ですが、世界遺産に登録された理由がヒンドゥー教の精神に基づくスバック(水利)システムです。

 観光客がこの風景を見るためには、村の入り口にあるゲートで約1ドルの入村料を払う必要があります。このように、バリ島では棚田やヒンドゥーのお祭りなどを積極的に魅力あるコンテンツとして利用し、観光客を誘客しています。そして、そのコアコンピタンスを楽しんでもらう仕組みは、さまざまな形で組み込まれています。例えば、写真にある棚田はホテルWapa di Ume Ubudの敷地の中にあり、この棚田を背景に結婚式が挙げられる施設があります。

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その11.旧態依然のマーケティングDNAというハードル~マーケットの変化に対応した観光地域づくり~
ホテル「Wapa di Ume Ubud」

 また、バリ島の観光人気の火付け役の一つ、高級リゾートホテル「アマンダリ」では、敷地の内外に棚田やヒンドゥー教の寺院があり、プールからは棚田で作業する農家の姿を見ることができるなど、バリの日常の暮らしの風景がホテルにとっての重要なコンテンツになっています。加えて、風景だけでなくバリの暮らしを体験するツアーも充実しており、例えば早朝の市場で買い物をし、ホテルスタッフの家で料理をつくり食べるなど、バリの生活を学び楽しめるコンテンツが揃っています。

 実際、2017年このアマンダリのマネージャーにインタビューをしたところ、経営哲学は「村の生活文化を基軸に据え経営をすること」と答えました。すなわち、「風土に基づく生活文化をエレガンスに提供する宿」として、バリ島ウブドゥの稲作とヒンドゥー教に支えられた暮らしのあり様をホテルの中でも提供することによって、世界中の富裕層に人気のリゾートホテルとなっています。

 地域のコアコンピタンス(競争優位な能力)を活かしコンセプトに沿って事業を行い、ご贔屓になってもらうことこそが地域ブランディングを成功に導く鍵となっているのです。

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その11.旧態依然のマーケティングDNAというハードル~マーケットの変化に対応した観光地域づくり~
バリの日常の暮らしの風景が楽しめるホテル「アマンダリ」

 旧態依然の遺伝子というハードルを超えながら地域ブランド作りを成功に導くためのポイントを示しましたが、多くの場合守旧派の力は強いものです。しかし、人口減少や社会インフラの変化、ニーズの多様化によるパラダイムシフトに対応したブランドマーケティングが重要になっています。観光地域づくりや特産品の開発販売を成功に導くため、反対の声が地域から上がる前に、ぜひ素早い成果を上げ地域ブランドづくりを成功に導いていただきたいと思います。

<連載第1~10回はこちら>
 その1.市場競争」の中でブランディング事業を行うということ
 
その2.ブランディング、なぜ必要?「目的の共有とブランド定義づくり」のハードル
 
その3.あいまいな「ブランディング成果」というハードル
 
その4.「地域らしさ」の共有ハードル、地域ブランドづくりで大切なのは魅力ある地域らしさ
 
その5. 先進事例に倣うなら、「モノマネ」より「コトマネ」で、というハードル
 
その6. 地域ブランドづくりにとって役に立つ「マーケティング」という大きなハードル
 
その7. 地域ブランドづくりに必要な「コンセプト」~地域ブランディングに取り組む上での大きなハードル「コンセプトの共有」~
 
その8. 地域ブランドづくりに必要な「デザイン」の働き ~そのデザインで、伝わりますか? らしさを「伝える」と言うハードル~
 
その9. 地域ブランドづくりにとって大切な「ネーミング」 ~名前がついていますか、それで魅力が伝わりますか~
  
その10. 地域ブランドづくりは、知的財産制度の活用で守りを固め、攻めの戦略づくりと両輪で行う~知財制度、上手く活用していますか~

著者プロフィール

福井隆

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

「地域で生きる希望をつくる」―地域の文化風土を活かした、持続可能な経営支援―

地域支援・事業化支援アドバイザー・地域ブランドファシリテーター
・地域ブランディング戦略作成支援
・観光地域づくり支援
・ステークスホルダーの合意形成支援

「地域で生きる希望をつくる」をモットーに、持続可能な地域をつくるための支援活動を行っている。地域の内発的な計画づくりの支援、地域資源を活かした魅力的な事業計画づくり、観光地域づくり支援、地域の人材育成支援など。
E-MAIL:kinari104@gmail.com

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