小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ7 〜お客さんとのコミュニケーション 自由に意見やアイデアが出る場づくり4つのポイントとは?〜

菊間彰一般社団法人をかしや代表理事

2019.01.07山口県高知県

「No」と言わない、「Yes,and」で答える

 これも非常に重要な視点です。ガイドは、お客さんが何を言っても「 NO!」と否定してはいけません。例えばこどもたちを森に案内しているときにガイドが質問したとします。

ガイド 「この森にはどんな動物がいるでしょうか?」

こども 「ライオン!」

ガイド 「ちがーう!」

こども 「・・・(しょぼーん)」

 こんなやりとりがたまにあります。常識で考えたら日本の森にライオンなんているわけはないのですが、子どもたちは本気なのかふざけてなのか「ライオン」や「トラ」などと言うことがあります。こういうときガイドは、無意識のうちに「違う!」とか「そんなのはいない!」などと言ってしまいがちです。

 でも「NO!」と言われた方の気持ちはどうでしょうか? にべもなく言い放たれた言葉は子どもたちの心を傷つけてしまうかもしれません。また相手が大人であればクレームの対象になりかねないやりとりです。こういう場合には「No」ではなく「Yes,and」で答えるようにしましょう。例えばこのような具合です。

ガイド 「この森にはどんな動物がいると思う?」

こども 「ライオン!」

ガイド 「ライオン!・・・はたぶん動物園にいるよね。他には何がいると思う?」

こども 「トラ!」

ガイド 「トラ!か。トラも動物園にいるね! 実はこの森にはね、タヌキやキツネや、シカやイノシシが住んでいるんだよ。」

 と言った具合です。大事なことは答えてくれた人の気持ちと言葉を尊重することです。正解かどうかは問題ではありません。ガイドの中には、自然やまちなみや歴史などの対象に対してすごく詳しく、知識豊富な方もいます。そういう人ほど「正解かどうか」を重視し、お客さんの気持ちを軽く扱ってしまう傾向があります。繰り返しますが、大事なのは「お客さんの気持ち」です。ガイドは常にお客さんの「気持ちと言葉」に敬意をはらい、大切なものとして尊重するようにしましょう。

 また、1回目の例と2回目の例とでは質問の言葉も微妙に異なっています。最初は「どんな動物がいるでしょうか?」と聞いているのに対し、2回目では「どんな動物がいると思う?」と聞いています。最初の例は、質問に対して「正しいか正しくないか」という答えがあるので、ついつい「違う」と言いたくなってしまいます。それに対して2回目には「どう思うか」を聞いています。思うことに正解も不正解もありません。どんなことも全てありなのです。   

 このように言葉かけ、質問の仕方一つで対応が全く変わってきます。この連載で何度も言ってきましたが、ガイドはサービス業です。常にお客さんにとって快い、適切な言葉を選んで使うようにしましょう。

小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ7 〜お客さんとのコミュニケーション 自由に意見やアイデアが出る場づくり4つのポイントとは?〜
ガイドは究極のサービス業です

少しづつ、丁寧に、お客さんとの信頼関係を育みましょう

 いかがだったでしょうか? ガイドはこのように繊細な言葉かけをし、少しずつ、そして丁寧に関わることでお客さんとの信頼関係を育みます。それにより「お客さん自身がガイドの話を聴きたくなるような」場と雰囲気をつくります。決して話を聞かせるのではありません。ツアーを通じて「話を聴きたくなるような」関係性をつくるのです。

 したがって、ガイドが学ぶべき技術として欠かせないのは「カウンセリング」や「ファシリテーション」の領域になります。心理学を学ぶのも良いかもしれません。ガイドの本質はお客さんとの繊細で丁寧な心理戦なのです。一方通行で知識を伝えるのがガイドではありません。

 私は、ガイドというものは究極のサービス業なのだと考えています。みなさんもお客さんとの丁寧な関わりを心がけてみてください。きっとその効果に驚くことでしょう。

<過去の連載>
ステップ1 小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ
ステップ2 まち独自の魅力の見つけ方
ステップ3 ガイドのためのフィールド調査 事前に確認しておきたい4つのポイントとは?
ステップ4 「体験」を通じて伝える方法 「アクティビティ」を使ってみよう
ステップ5 ガイドに必要な「あり方」 大切な3つのスタンスとは
ステップ6 来るのはどんなお客様? 対象者理解に必要な5つの視点

著者プロフィール

菊間彰

菊間彰一般社団法人をかしや代表理事

1974年生まれ。「一般社団法人をかしや」代表理事。環境教育と自然ガイド(インタープリテーション)が専門。ロープワークやナイフワーク、火起こしなどアウトドアスキル全般も得意。20代はじめに猿岩石に影響されバックパッカーとして東南アジアを巡る。その後、富士山麓、沖繩、名古屋、新潟など全国で自然に関わる仕事をしたのち2008年より愛媛県今治市に移住「をかしや」を起業。自然体験のノウハウをベースとした、行政向け、企業向け、一般向け研修を多数実施。「まごころこめて、ほんものを提供する」がモットー。

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