小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ12.ガイドの役割と意義 ~インタープリターになろう~
インタープリターは、ともすると見落としてしまいそうな「何気ない」時間や空間の中に魅力を見いだす
インタープリターの意義、最後の一つは「見落としてしまいそうな『何気ない』時間や空間の中に魅力を見いだす」ことでしょう。ガイドやインタープリターが案内する場所は、必ずしも「特別な場所」とは限りません。けれど、どんな場所にもその場所「ならでは」の魅力があるはずです。インタープリターはそれを見いだし、そこにスポットライトを当て、誰にとってもわかりやすい形で魅力を伝えていくのです。
例えば、私はガイド養成の研修をする際、特別なまちなみや歴史スポットや自然の中ではなく、本当にどこにでもある普通の公園で実施することがあります。みなさんは、そんな公園でガイドしようとしたら、どのようにしますか?
私はまず、その公園を歩き回り、面白いものを探します。木が多いのか。花は咲いているか? 虫や動物はいるのか? 面白い遊具はないか? 建物や、景観的な特徴はないか? 当たり前に見える景色の中で、そこにしかないその公園「ならでは」のモノやコトを探していきます。
同時にその季節「ならでは」のものを探します。夏であれば夏らしいもの、冬であれば冬らしいものを探します。それは新緑や紅葉のような自然の魅力だったり、あるいは季節ごとの影の長さの違いだったり、夏であれば心地よく吹き抜ける風だったり、冬であれば陽だまりのぬくもりだったりもします。
そういったその公園「ならでは」、その季節「ならでは」のモノやコトを探し出し、それを体験できる「アクティビティ」という遊びに仕立てます。そしてその遊びを通じて、お客さん自身にその公園ならではの魅力に「気づいて」もらうのです。
これはまちなみであっても同様です。実際に、以前山口県の萩で研修をした時も、同様のプロセスでまちの魅力を調査し「My家紋づくり」というアクティビティに仕立てました。これにより、研修に参加してくださったみなさんは、萩という歴史あるまちの魅力に自ら気づくことができたのです。ステップ4 「体験」を通じて伝える方法 「アクティビティ」を使ってみよう
このように、インタープリターはその場所がどんな場所であろうと、その場所、その時「ならでは」の魅力を見つけ出します。そしてそこに光を当て、体験を通じて「お客さん自ら」気づけるようにします。そんな体験をするとお客さん自身に「魅力を発見する視点」が身につきます。これが大事な点であり、インタープリターの意義なのです。お客さんは、
「そうか、こんな何気ない場所にもそんな魅力があったんだ! 新しい発見だな〜。」
「ン? 待てよ、こんなところにも魅力があるなら、自分のまちのあそこにも、結構魅力があるんじゃないかな?」
と、自分のまちや地域の魅力に気づけるようになるのです。視点が変わることにより、自分のまちや地域のことをさらに好きになり、自分の地域とそこに住む自分自身のことに誇りを持てるようになるかもしれません。このようにインタープリターは体験を通じて「シビックプライド=地域や都市に対する市民の誇り」を高める働きをするのです。これって結構すごいことだと思いませんか?
インタープリターという魔法使いになろう
いかがでしたか? 1年間にわたって連載してきた「喋るのではなく体験を通じて伝える」ガイドとそのガイド術。これにはインタープリターとインタープリテーションという名前がありました。今回は総まとめとして、その意義と効果について書いてみました。「知識や情報を伝える人」というイメージが強いガイドですが、もっともっと大きな可能性があるのではないでしょうか? 私はガイドやインタープリターは究極のサービス業であり、世の中を明るい方向へ変革する力を持っていると考えています
最後に、私が新潟で仕事をしていた時にお客さんから言われた言葉を紹介しておきたいと思います。
「菊間さんたちのガイドは、他とは全然違う。子ども達が目を輝かせて、嬉々としてついていく。自然のことや、教えてもらったいろんな世界にのめり込んでいく。まるでハーメルンの笛吹き男のようだ!」
優れたガイド、インタープリターは、お客さんに大きな感動と喜びをもたらします。たった一回のツアーに参加したことで、その後の人生が大きく変わってしまうこともあります。そういった、インタープリターが巻き起こす奇跡を私たちは「インタープリテーション・マジック」と呼んでいます。
みなさんもぜひインタープリテーションを学んでみてください。きっと新たな世界の扉が開くはずです。共に学び、ただ知識を伝えるだけではない、世の中の不思議や喜びや感動を伝える魔法使いに、一緒になりましょう。
子どもが喜んでついてくるようなガイドをめざしましょう!(新潟県柏崎市)
リンク:一般社団法人をかしや
<過去の連載>
ステップ1 小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ
ステップ2 まち独自の魅力の見つけ方
ステップ3 ガイドのためのフィールド調査 事前に確認しておきたい4つのポイントとは?
ステップ4 「体験」を通じて伝える方法 「アクティビティ」を使ってみよう
ステップ5 ガイドに必要な「あり方」 大切な3つのスタンスとは
ステップ6 来るのはどんなお客様? 対象者理解に必要な5つの視点
ステップ7 お客さんとのコミュニケーション 自由に意見やアイデアが出る場づくり4つのポイントとは?
ステップ8 小道具の活用 おさえておきたい3つのポイントとは
ステップ9 これだけはすべからず! 〜ガイドがやりがちな3つのタブーとは〜
ステップ10 こんな時どうする!? ~ガイド中のトラブル&失敗談~
ステップ11 やりっぱなしにしない! ~成長のためのふりかえりとフィードバック~
■著者プロフィール
1974年生まれ。「一般社団法人をかしや」代表理事。環境教育と自然ガイド(インタープリテーション)が専門。ロープワークやナイフワーク、火起こしなどアウトドアスキル全般も得意。20代はじめに猿岩石に影響されバックパッカーとして東南アジアを巡る。その後、富士山麓、沖繩、名古屋、新潟など全国で自然に関わる仕事をしたのち2008年より愛媛県今治市に移住「をかしや」を起業。自然体験のノウハウをベースとした、行政向け、企業向け、一般向け研修を多数実施。「まごころこめて、ほんものを提供する」がモットー。
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