連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル  ~その8.地域ブランドづくりに必要な「デザイン」の働き ~そのデザインで、伝わりますか? らしさを「伝える」と言うハードル~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

2019.01.28奈良県福岡県

競争優位性を見つけ出そう

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その8.地域ブランドづくりに必要な「デザイン」の働き ~そのデザインで、伝わりますか? らしさを「伝える」と言うハードル~
筒井時正玩具花火製造所が製造販売する線香花火

 右の写真は、福岡県の筒井時正玩具花火製造所が製造販売する線香花火、桐箱入りで5,400円と高価ですが大人気の商品です。この商品をデザインした中庭氏によると、デザインを依頼された当時、線香花火は中国などから安価な商品が市場に流入し国産の線香花火は風前の灯火状況だったそうです。

 ここで、デザインを施すにあたって中庭氏が考えたことは、そもそも「線香花火とは何」かということでした。そこで、花火や線香花火について徹底的に調べ、「花火はお祝い事」に使われる縁起物、線香花火には「牡丹・松葉・柳・ちり菊」という四段階の燃え方があること、「すぼ手と長手」という二種類の線香花火があるコトなどがわかりました。そこで、花火の本質が「お祝い事」であることから、贈答品として商品を開発したと聞きました。

 具体的な人物像として、六本木ヒルズに住むIT系の若い社長が誕生日に家族から送られるプレゼント、それを家族とともにベランダで線香花火に火をつける情景までイメージし、それにふさわしい売り場、売り方、パッケージ、花火本体の色や形、名前(この商品は「花」と名付けられている)までをデザインしています。結果的に、都内の高級贈答品を扱うデパートやセレクトショップで人気となりました。人気の理由は、花火の魅力の本質を掘り下げ、市場の中でその魅力に惹かれる人たちに向けてデザインを行ったことでした。

連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その8.地域ブランドづくりに必要な「デザイン」の働き ~そのデザインで、伝わりますか? らしさを「伝える」と言うハードル~
徳島県西部の二市二町の地域DMO「そらの郷」

 地域資源ブランドだけではなく、地域そのものをブランディングする上でもこのようなデザインの役割は重要です。上記のように、モノやコトの本質を掘り下げ、魅力を「見える化」することが地域を対象にしても重要なのです。第一回の連載で取り上げた、徳島県西部の二市二町の地域DMO「そらの郷」は、地域そのものをブランディングしている事業主体ですが、HPに以下のような言葉が示されています。

「千年以上も受け継いできた山里の暮らしがあります。人々は共働して畑を作り、高地性集落「そらの郷」の暮らしを続けてきました。農山村の暮らしの体験を通じて、日本の原風景の「Spirits of JAPAN」を体感してください。」誘客のコンセプトは「千年のかくれんぼ」、上記にある山里の暮らしをコンセプトに託して事業を行って人気となっています。

 この中で重要なことは魅力の核となっていることがらをコアコンピタンス(競争優位な能力)として中心に据えていることなのです。すなわち、ここでは千年以上続いてきたこの地の暮らしの核には斜度40度という急傾斜地での農業という生活文化があり、そのことこそを魅力の核としてツアーをデザインしお客様を受け入れています。

 具体的なデザインの内容は、例えば写真にあるような急傾斜地に立つ農家の縁側から圃場を眺め、おばあちゃんとお茶を飲んだり話をしたりすることがプログラムとなっています。この事業コンセプトの具体化にあたっては、アレックス・カルバンという40歳のフランス人男性を想定人物としてプログラムを組み立てています。千年にわたって自然と共存し持続可能なかたちで続いてきた暮らしに魅力を感じてくれるのは、フランスの豊かな知識階級が一番応えてくれるのではないかと想定したのです。

 その結果、フランス人を中心としたインバウンド需要商品の造成と販売で大きな成果を上げてきました。このように地域ブランドを作り上げるためには、競争優位で本質的なモノやコトの魅力を見える化し、伝えるというデザインの働きは欠かすことが出来ません。各地域の競争優位なモノやコトを探し、その魅力の本質をデザインすることが地域ブランド作りを成功に導く王道なのです。

<連載第1~7回はこちら>
その1.「市場競争」の中でブランディング事業を行うということ
その2.ブランディング、なぜ必要?「目的の共有とブランド定義づくり」のハードル
その3.あいまいな「ブランディング成果」というハードル
その4.「地域らしさ」の共有ハードル、地域ブランドづくりで大切なのは魅力ある地域らしさ
その5. 先進事例に倣うなら、「モノマネ」より「コトマネ」で、というハードル
その6. 地域ブランドづくりにとって役に立つ「マーケティング」という大きなハードル
その7. 地域ブランドづくりに必要な「コンセプト」~地域ブランディングに取り組む上での大きなハードル「コンセプトの共有」~

 

著者プロフィール

福井隆

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

「地域で生きる希望をつくる」―地域の文化風土を活かした、持続可能な経営支援―

地域支援・事業化支援アドバイザー・地域ブランドファシリテーター
・地域ブランディング戦略作成支援
・観光地域づくり支援
・ステークスホルダーの合意形成支援

「地域で生きる希望をつくる」をモットーに、持続可能な地域をつくるための支援活動を行っている。地域の内発的な計画づくりの支援、地域資源を活かした魅力的な事業計画づくり、観光地域づくり支援、地域の人材育成支援など。
E-MAIL:kinari104@gmail.com

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