連載「地域ブランドの作り方」成功のための12のハードル ~その7.地域ブランドづくりに必要な「コンセプト」~地域ブランディングに取り組む上での大きなハードル「コンセプトの共有」~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

地名は地域の「共有の知的財産」

 特許庁によって制度化された「地域団体商標」制度は、平成18年度より運用され「地域の旗印」となるブランドを確立するための第一歩として、地域の産業発展に活用されてきました。これは、地域ブランドとしての信用・信頼が蓄積し、地域団体商標自体のブランド力向上にもつながることが期待されるものとして導入されたと特許庁のHPに謳われています。

 この制度の特徴として、専用使用権(特定の者のみが商標を使用できる権利)を設定することはできないということが挙げられます。それは、「地域名+商品名」からなる商標は、本来、特定の者が独占することになじまないという理由からです。すなわち、地域名はそこに居住する人々共有の知的財産であることから独占ができないとされています。

 このようなことから明らかなことは、地域の利害関係者(出願主体組織に加えブランド化推進協議会など)の合意形成がないと地域ブランド化は進められないということです。言い換えると、知的財産としての地名は、関係者が協力してブランド化を進める必要があると言ってよいでしょう。

 実際に、知的財産である地域名がブランド力を持つと価値が上がる(高く売れる)ことが知られています。日本で一番ブランド力を持つ地名は京都です。平成30年11月現在、特許庁に登録されている地域団体商標は641件あるのですが、その内63が京都関係の地域名が使われています。「京都+商品名」になると、良いものだと認識され高く売れるというわけです。地域ブランディングにおいては、このように京都のような価値を地名が持つことを目指す必要があるということです。

公平性、公共性の担保というハードル

 これまで見てきたように、地域ブランドにとって地名はたいへん重要です。

 例えば前述の「京都」。京都あるいは京都に関係する名前を商品名につけるだけで、消費者にとっては信頼感が高まります。

 例えば、とても良い「お茶」であることをいろいろな手段を使って表現するより、「宇治茶」と名乗るだけで歴史も文化も感じさせ、信頼性が高まるのではないでしょうか。ここで重要なことは「宇治」という地名が、お茶においては競争優位性を持った「ブランド価値」を獲得していることです。

 あるいは、現在の市場流通で一番高く販売されているネギは、京都の「九条ネギ」だそうです。これは、京都の南区の九条が主産地だったことから名付けられ、京野菜の代表的な野菜として知られると同時に、「九条」がネギにおいてブランド価値を獲得している地名だということです。このような競争優位性を獲得すれば、わざわざ地名を変え「京都ネギ」「京都茶」とする人はいないでしょう。ましてや、現在九条ネギの主産地が京都南部の八幡市になっていることから、「八幡ネギ」として販売するなど考えられない事と理解できるでしょう。

 しかし、残念ながらこのようなことが多くの地域で起こってしまいました。特に平成の大合併に伴って、○○地域商品として有名だったにもかかわらず、新しい地域名を冠にした特産品が全国各地で誕生してしまいました。

 公共性や公平性を重要視すると、どうしても一部地域の地名をつけた商品だけが高く売れると、それ以外の合併で一緒になった地域が不利を被っていると政治的には考えられがちなのです。実際に、全国で特産品開発や観光地域づくりが進められていますが、そのほとんどが公的機関の呼びかけで始められているのが実状です。公的な価値を生み出す必要があることから、行政等の公的機関が旗を振るのは重要なことではあるのですが、どうしても公共機関は公平性の担保等の原則に振り回される傾向が強いようです。

 この連載でも取り上げ成功している「だだちゃ豆」や「関アジ・関サバ」も、関係機関の合併時にそのような圧力がかかったと関係者から聞いたことがあります。

 特に公共機関の関係者のみなさまには、競争優勢を獲得した地域名をぜひ大事にしてほしいと思います。加えて地域ブランド化においては、地域の魅力ある資源に焦点を当てコンセプトに基づき地域の価値を上げることに全力を傾けていただきたいものです。

<連載第1~6回はこちら>
その1.「市場競争」の中でブランディング事業を行うということ
その2.ブランディング、なぜ必要?「目的の共有とブランド定義づくり」のハードル
その3.あいまいな「ブランディング成果」というハードル
その4.「地域らしさ」の共有ハードル、地域ブランドづくりで大切なのは魅力ある地域らしさ
その5. 先進事例に倣うなら、「モノマネ」より「コトマネ」で、というハードル
その6. 地域ブランドづくりにとって役に立つ「マーケティング」という大きなハードル

著者プロフィール

福井隆

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

「地域で生きる希望をつくる」―地域の文化風土を活かした、持続可能な経営支援―

地域支援・事業化支援アドバイザー・地域ブランドファシリテーター
・地域ブランディング戦略作成支援
・観光地域づくり支援
・ステークスホルダーの合意形成支援

「地域で生きる希望をつくる」をモットーに、持続可能な地域をつくるための支援活動を行っている。地域の内発的な計画づくりの支援、地域資源を活かした魅力的な事業計画づくり、観光地域づくり支援、地域の人材育成支援など。
E-MAIL:kinari104@gmail.com

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