連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル~その4.「地域らしさ」の共有ハードル、地域ブランドづくりで大切なのは魅力ある地域らしさ

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

3番目のハードル 「地域らしさ」(=本質)にふさわしい服を着せる

 次に示した図2を、図1と比較して見ていただくと「由布院温泉」(大分県由布市)が微妙な位置に示されているのが分かります。図1では温泉というモノ消費の中でポジションを示しましたが、図2では地域そのものがもはや地域ブランドとして由布院は捉えられていると評価しました。温泉という「モノ(施設)」×「コト(保養)」でブランディングを図ってきた由布院では、温泉保養に行くことが「由布院らしさ」の象徴となっています。

 実際に、旧由布院村の地域づくりを主導された中谷健太郎氏や溝口薫平氏は、当初から温泉の保養を地域らしさの核としてブランディングを進めてこられました。しかし当初は、映画祭や由布岳、銀鱗湖を中心とした山里の風景など優れた資源をフルに使い、ブランド化というより地域づくりを推進されました。もちろんそれが大きな成果につながったのですが、温泉だけに焦点を絞らず地域にある良いものを上手く活かし地域づくりを行ってきたわけです。

 しかし、その中でも象徴的なことは、由布岳の麓に拡がる山里の風景やそこでの温泉保養こそが地域らしさであると考え、宿の施設も都会的にするのではなく、例えば竹の樋で水を引き、いかにも「山里の温泉宿の上質な保養」という演出に趣向を凝らしたと聞きました。そして、名称も自治体が合併したことによって誕生した湯布院という地域名ではなく、昔からの「由布院」温泉という表記にこだわっているといいます。

福井隆 地域ブランド
図2 人気地域ブランドポジショニング2

 ここも理解すべき大事なハードル(3番目)として押さえていただきたいのです。それは「地域らしさ」(=本質)にふさわしい服を着せてあげることがとても大事ということです。魅力ある「地域らしさ」を背景にして「モノやコト」の良さを伝える。プロヴァンスであれば、苦労して創り上げたハーブ文化の豊かさや素晴らしさ(=プロヴァンスらしさ)を、12か月のリゾート生活として紹介したのがピーターメールの「南仏プロヴァンスの12か月」というベストセラー書籍でした。DMOがマネジメントしたわけではないのですが、期せずして良い服が着せられ人気ブランド地域になったわけです。実際には、なかなかこのことが理解されていないような気がします。

 湯布院ではなく「由布院」、一見小さく見える事柄にこだわることから地域ブランド化の成否が決まると言っても良いでしょう。ブランド化の本質は、外に露出する細部に宿るのです。

 

<連載第1~3回はこちら>
その1.「市場競争」の中でブランディング事業を行うということ
その2.ブランディング、なぜ必要?「目的の共有とブランド定義づくり」のハードル
その3.あいまいな「ブランディング成果」というハードル

著者プロフィール

福井隆

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

「地域で生きる希望をつくる」―地域の文化風土を活かした、持続可能な経営支援―

地域支援・事業化支援アドバイザー・地域ブランドファシリテーター
・地域ブランディング戦略作成支援
・観光地域づくり支援
・ステークスホルダーの合意形成支援

「地域で生きる希望をつくる」をモットーに、持続可能な地域をつくるための支援活動を行っている。地域の内発的な計画づくりの支援、地域資源を活かした魅力的な事業計画づくり、観光地域づくり支援、地域の人材育成支援など。
E-MAIL:kinari104@gmail.com

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