連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル~その4.「地域らしさ」の共有ハードル、地域ブランドづくりで大切なのは魅力ある地域らしさ

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

「地域らしさ」の共有ハードル~最初のハードル 「何を地域らしさ」とするか

 ここで見たように、地域ブランドづくりにおいて大事なことは、その地域独自の良さ、魅力ある「らしさ」をモノやコトの背景(モノガタリ)に据えてブランディングを進めることが重要です。

 それは、「地域らしさ」をブランド価値づくりの背景にすれば、信頼性が増し人々に選択してもらいやすくなるということです。その上、重要なのは模倣がしにくく代替えが利かないことにつながります。そして、「地域らしさ」の内容やブランディングの進め方については関係者が共有し、同じ方向に向かって進むことも重要です。

 しかしながら地域ブランドづくりでは、このことがなかなかできないようです。これを「地域らしさ」の共有ハードルと呼んでみます。

 その中でも、最初のハードルが「何を地域らしさ」とするのか、ブランディングの背景に据える魅力ある「地域らしさ」について焦点を絞ること、これがなかなか難しいようです。地域には、長い歴史や文化、自然風土などたくさんの魅力あるモノやコトが存在しています。その中から、魅力ある「地域らしさ」とは何なのか、関係者で話し合うと「あれもこれも」となるのが通常です。しかし、世の中「何でもあります」は「何もない」と一緒で、魅力が伝わらないものです。どうすれば魅力ある「地域らしさ」に焦点を絞って打ち出すことができるのか。

 図1を見てください。これは、人気になっている地域ブランドのポジショニングを示したものですが、その中にある「熊野古道」について紹介したいと思います。

福井隆 地域ブランド
図1 人気地域ブランドポジショニング1

 「熊野古道」は、平成16年に世界遺産に登録され、多くの外国人観光客で賑わっていますが、それまでは外国人がほとんど訪れていなかった場所でした。加えて、観光関係者にとっても高野山の周りにある古い山道程度の認識でしかありませんでした。

 登録から2年後の平成18年、和歌山県田辺市の観光協会を母体として(一社)熊野ツーリズムビューローが設立され、地域の観光マネジメントを主とした事業が始まりました。ここでは、まず地域にたくさんある魅力のある資源、例えば白浜温泉や竜神温泉、熊野本宮大社、高野山、那智の滝、紀州みなべの南高梅や有田ミカンなど、当時「熊野」より有名で魅力ある地名がたくさんあるにもかかわらず、「熊野」を基軸に打ち出していくことを決めました。

 しかし、いくら世界遺産として登録されても地元の人々の認識は、「『熊野古道』と言っても『ただの山道』。その内ブームも冷めるだろう」という程度の認識でした。

 そこで、(一社)熊野ツーリズムビューローでは、地域らしさを基軸としたコンセプトを決め事業マネジメントを行いました。具体的には、熊野の精神性(Sacred Kumano・神聖なる熊野)を地域らしさの核として打ち出すため「巡礼の道」として「熊野古道」のプロモーションや受け入れを行い、精神性の理解できる人たちに来てもらうことにしました。同時に、地域にたくさんいるステークホルダーや関係者にもワークショップなどを通じて理解を拡げる努力は惜しまなかったと聞きました。その結果、ただ山道を歩いてもらうのではなく、精神性の理解できる人たちに来ていただき愉しんでいただけるように、受け入れ態勢の整備やコンセプトに沿った事業を組み立て大きな成果を上げました。

 どんな地域においても、何をもって「地域らしさ」とするのか、関係者の利害もあり難しい場面も予測できるのですが、地域の魅力の本質は何なのか、歴史や文化、風土、自然など、地域のDNAレベルまで掘り下げ、地域の人たちが納得できる「地域らしさ」を決め、共有し、地域ブランド化を進めることが成功への第一歩なのです。

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