連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル~その4.「地域らしさ」の共有ハードル、地域ブランドづくりで大切なのは魅力ある地域らしさ

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

第2のハードル 段階に合わせて事業を推進する

 地域ブランドと聞いて思い出すものはなんでしょうか。関アジ・関サバでしょうか、それとも美瑛の丘陵と花の風景でしょうか。再び図1を見てください。連載の第2回に述べたように、地域ブランドには「地域資源ブランド」と「地域そのものがブランド」になる2つのフェーズがあります。このことを少し整理してみたのがこの図です。ここでは「地域資源ブランド」の代表として「パルマの生ハム」や「夕張メロン」「馬路村のぽん酢」などを取り上げています。同時に、「食べる」モノ消費として「讃岐うどん」や「宇都宮餃子」などがありますね。

 観光のジャンルでは、場所や施設がブランドになっている姿を「地域資源ブランド」として整理し、「熊野古道」や「ニセコスキー場」「旭川動物園」などを取り上げました。また、「地域そのものがブランド」になっている代表として先ほど示した「ハワイ」や「プロヴァンス」「サンセバスチャン」などを示しました。このようなポジショニングを把握することによって、日本全国で立ち上がり始めたDMOが、ハワイやナパヴァレーのDMOのように「地域そのものがブランド」になることを目指す必要があることも理解できるのではないでしょうか。

福井隆 地域ブランド
ただの山道とされていた世界遺産・熊野古道

 ここで「熊野古道」を地域資源ブランドにポジショニングしたのは、熊野が地域そのものを表すブランドにはなりきれていない発展途上の状態を示しています。「熊野古道」という「道」がブランドになっているのですが、まだ「線」の状況で、これから「面」のブランド化を目指す状況にあるということです。すなわち、図1で示した地域資源ブランドは「点」のブランド化ができている状態と言っても良いでしょう。そして、目指すべき地域そのものがブランドになっている状態は「面」のブランド化が完成している状態、そしてその途上は「線」のブランド化状態として捉えることも可能です。それぞれの状態が補完的に作用しながら、「地域そのものがブランド=面のブランド」になることを目指すのが良いのではないでしょうか。

 しかしながら、現状のブランド化推進事業では点・線・面として捉えることのできる、それぞれフェーズの異なる「地域ブランド」状況が理解されず、段階に合わせて事業を推進することが第2のハードルになっているようです。

 そして、図1を良く見ていただくと、モノのブランディングと観光(ディスティネーションブランディング)では、「モノ」と「コト」消費という違いが存在していることが分かります。これは、それぞれが全く別にあるのではなく、補完しながら価値が創造されていく存在と捉えていただくと良いでしょう。

 地域ブランド化で進むべき方向は、地域らしさを背景にして「モノ」や「コト」に価値を生み出し、信頼をつくりあげることです。加えて、相互的に、地域そのものの価値を高める必要もあるでしょう。地域ブランド化によって、その地域の商品・サービスの価値が高まり、高く売れるようになるだけでなく(地域資源ブランド)、地域が関わる、観光・交流、教育、福祉、文化、自然、景観など、地域そのものの価値と信頼の向上を目指すべきです。

 図1の中で言うと、特にポートランドなどが具体的に地域の価値が高まった典型です。現在ポートランドは、全米で一番住みたい街に選ばれているそうです。その理由は、「エコディストリクト」というコンセプトに沿った街づくり。同時に、徒歩20分圏内のコミュニティーづくりを推進し、緑陰や自転車・スケボー専用の道路の設置、カフェやフードカートなどを優遇し、サスティナブルで小さな街づくりを推進したことによってライフスタイルが支持され、文字通り人気のブランド地域になっているようです。

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