連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル ~その3.あいまいな「ブランディング成果」というハードル~

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

2018.07.23

ブランド化とは、多くの人の心に「良さ」を植え付けること

 「〇〇らしい=らしさ」が「良いなぁ」という心理(評価)を、多くの人の心の中に植え付け、高いレベルで維持されている状況を「ブランド化」されている状況と理解すると分かり易いのではないでしょうか。先に挙げた京都の老舗の“ノレン”は、「のれんを守る」と言います。この意味は、「みんなが老舗らしくて『良い』と評価する状態を長く保つこと」です。

 「ブランド」という言葉も、元々英国の牛飼いが自分の肥育する牛に焼き印を押したことから始まったと聞きました。○○さんの育てた牛は××だから良い、その目印として焼き印を押し、その焼き印のことを指して「ブランド」と言う言葉が使われるようになったそうです。すなわち、焼き印で他の牛と区別し、焼き印で信用を担保しようとしたわけです。

地域ブランド 福井隆 東京農工大学
だだちゃ豆シール

 前回示した地域資源ブランドの成功事例「だだちゃ豆」では、高いハードルのブランド定義を共有し、出荷に際してもだだちゃ豆「らしさ」にこだわり、定義を守ると共に鮮度保持袋に入れることが義務付けられました。そして、右のシールが貼られているものだけをだだちゃ豆と呼ぶようにしています(※)。すなわち、高いレベルで持続的に「らしさ」を保持する仕組みが作られているわけです。

 あらためてだだちゃ豆が「ブランド」として認知されている状態を考えると、多くの人たちの心の中に「○○らしさ」が形成されており、それを「良い」と評価・信頼する状態となっているのでしょう。すなわち、「だだちゃ豆」は「鮮度が良くて、殿様が食べていた高級な枝豆」という「らしさ」に、多くの人が「良いものだから」と購入する状況が続いているのです。

(※)鶴岡市だだちゃ豆生産者組織連絡協議会では、JA鶴岡を通じて販売しているものは紫色、それ以外へ販売しているものは赤色、加工は緑色というように、シールの色を分けて出荷しています。

 

モノガタリを活かしたブランド化

 さてそれでは、この連載のテーマである「地域ブランド」において「らしさ」とは何か考えてみましょう。

 以前、私がお手伝いさせていただいた「はかた地どりⓇ」を例にとってお話しをしましょう。この仕事は、特許庁の地域団体商標制度を活かし商品のブランド化をお手伝いするものでした。しかし、有名な「博多」という地域を活かすのは良いのですが、「博多で地鶏を飼っているのか?」というリアリティーの無さに、最初は戸惑いました。実際、関係者にヒアリングをしてみると、博多にあるデパートの催事で消費者から「博多のどこで地鶏を飼っているのか?」という質問があったそうです。

 そこで行ったのは、「なぜ博多を中心とした九州では鶏や卵を使った料理やお菓子が多いのか」についての調査でした。卵を使ったお菓子は、長崎のカステラから博多の鶏卵そうめんなど、かつてのシュガーロード(長崎街道)沿いに点在しており、料理についても博多の水炊きから大分の唐揚げ、かしわの炊き込みご飯など、たくさんの鶏料理が庶民に親しまれていることが分かりました。そして、その理由を深掘りしていくと、どうやら黒田藩が藩士に庭で鶏を飼うことを奨励したからではないかという仮説が生まれました。実際、黒田藩は殖産興業に励み「卵」を上方にも出荷していたようです。そのような背景から、九州北部では鶏の文化が根付いていったのではないかと推測することができました。

地域ブランド 福井隆 東京農工大学
「はかた地どりⓇ」のマーク

 「はかた地どりⓇ」ではこのことを「らしさ」と位置付け、黒田の殿様の時代からあった鶏を飼う文化と、同時に貿易港であった博多での人々の交流が水炊きなどの鶏を食べる文化を育んだというモノガタリを、ブランドイメージの核にすることにしたのです。実際には「はかた地どりⓇ」は博多では肥育されてはいないのですが、古くから福岡地域で鶏が飼われ食文化が形成されていたことを優位性(らしさ)として価値を生み出そうとしたわけです。

 この結果、「はかた地どりⓇ」はそれまで量販店や全国チェーンの飲食店中心の低価格マーケットで売られていた状況から脱して、一段階上のマーケットポジションに入ることができ、売り上げも順調に伸びていきました。

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