持続可能なまちづくりを叶える「地域まるごと宿」 ―アースキューブジャパン中村功芳さんインタビュー
たった1人のためのおもてなしを考える
ではこうして見つけた地域の宝をどう大きく育てていくのか。方法の一つは、その土地にしかないオリジナルで起源になるためにも、世界が共感するオリジナルを生み出すこと。その手法ともいえるのが、「世界の1人のために磨き上げること」である。
中村:「それがダイアローグ(情報交換)のある宿です。資料交換ではなく地域の人や宿泊者同士が情報交換できる宿とは何かというと、旅行客100人中1人だけを喜ばせる宿です。100人に失礼のないマニュアル的な対応をすると、ある程度満足してもらえてもリピーターにはなりません。
逆に『あなた1人のために作りました』ということが伝われば、その人は愛着を持ち、友達に自分の家のように広めてくれます」
どの1人に向けて発信するのか。これは地元の人あるいは自分や家族が会いたい、または来てほしい人を基準に創造するべきだと中村さんはアドバイスする。大切なのは具体的に決めておくこと。
イタリア人女性なら、何歳で、どこに住み、どんな仕事、趣味、好む服などをピンポイントに設定していく。これをペルソナ設定というが、この設定を徹底して作り込むことで、その人にどうすれば喜んでもらえるか、どんなアプローチがいいのかおのずと決まる。
地域の素朴な暮らしを見てもらいのであれば、時にはエアコンを外し、蚊帳で寝たり、風が通りぬける間取りにしたりといった仕掛けも必要になる。
便利さをなくした方が魅力が増すこともある
また、自分自身の視点や姿勢も重要になるという。
中村:「本質的な暮らしを残しオリジナルで起源になるためにも、自分が面白いことをしているか、地域のためになることをやっているかという視点が大切です。なぜなら自分が面白いと考えて人生をかけて生き様を見せていれば、人は見に来てくれるからです。ビジネスは後からついてきますから。
私はその基準として、1万時間(約2年間)ワクワクし続けられるかどうか、2年後に自分、家族、地域の人が心豊かな暮らしをしていることを思い描けるかどうかがその基準だと言っています」
その地域の持つ歴史や宝、そして自分の人生をかけた生き様、この2つがクリエイティブに融合したとき、どこにもないオリジナルな人の息遣いが込められたなりわいができる。
それがきちんと伝わる人に届けば、面白くないはずはないと中村さんは自信を持って語る。
「地域まるごと宿」を地域活性化のモデルに
中村さんの進める「地域まるごと宿」の考え方は、従来の観光や地域活性化の考え方とは一線を画した、新たな生産型観光のモデルを提示しているといえるのではないだろうか。
従来の観光はすでに観光スポットがあり、そこに照準を合わせてきた。多くの観光客のニーズに合わせることの大切さはさまざまなところで説かれてきた。
ところが中村さんは、そのニーズを自分が来てほしいと思う個人に設定すること、つまり自らがそのニーズを創り出すべきだと話す。これは観光客を数で見ず、一人ひとりと本気で向き合うおもてなしである。ここまで突き詰めて生まれる人の輪が、これからの観光には必要になるかもしれない。
地域まるごと宿のさらなる魅力は、旅人にまちを周遊してもらうことでまちが潤うことに加え、旅人と一緒にまちづくりをするところにある。自分たちが創造した旅人が新しい風を呼び込み、地域の価値を高めてくれる存在になる。自分たちのオリジナルのなりわいの魅力を増してくれる担い手になってくれるのだ。
旅人との交流も持続可能な生産型のまちづくりには欠かせない。観光と地域活性化の相乗効果が噛み合うのも、地域まるごと宿の魅力でもある。
これらは一見、多くの観光客を呼ぶという地域活性化には遠回りに見えるかもしれない。しかし一人ひとりと本気で向き合った人と人、人と地域のつながりは色あせることはない。
ゲストハウスの多くは数年で消えているが、中村さんの支援したゲストハウスが90%以上残っている事実を見てもそれが分かるのではないだろうか。
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