持続可能なまちづくりを叶える「地域まるごと宿」 ―アースキューブジャパン中村功芳さんインタビュー
地域全体でおもてなしする「地域まるごと宿」
その暮らしの豊かさをゲストハウスに取り入れ、持続可能な地域経営のモデルとして実現させたのが地域まるごと宿である。これはまちの空き家をゲストハウスとして活用し、地域内に飲食、サービスなど機能を分散させて、集落全体をホテルと見立て観光客を迎える仕組みである。
中村:「地域まるごと宿であれば、まちの飲食店で食事をして銭湯で入浴し、雑貨店で買い物して…と旅行客が集落を周遊します。
それぞれお金が落ちるのでまちが活性化します。地産地消なので農業や商業も元気になり、移住者も増えるかもしれません。旅行客にとっても地域の人とさまざまな交流ができ、地域の本来の姿を見ることができると喜ばれます」
この地域まるごと宿は一般的な観光地とはいえない農村集落や小さな村で始められるのも魅力だという。実は一見「観光資源は何もないと思われているまち」の方が、暮らしの美という本質的な世界の旅人を惹きつけることになると中村さんは話す。
中村:「なぜならその方が文化が消耗されずに丁寧な暮らしが残っている場合が多いからです。
さらに観光地として消費されていないので、地元の方たちが、私たちが行くことで、オリジナルの起源として始めることができます。このオリジナルこそが強みになります」
広島県の三原港からフェリーで25分、瀬戸内海に浮かぶ佐木島。観光地化されていないまちの方が丁寧な暮らしが残り、まちが消費されずにいる
つまり地域の宝はどこにでもあるが、何もないというのはそれに気づかないだけだということ。ではその宝に気づくためにはどうすればよいのだろうか。
中村:「暮らしの中にある心温まる宝を共有することを「♯ナカソン」と呼んでいますが、それを探して全国を回って歩き、先人の営みを発見する『暮らし旅』を行います。ただし歩いて回るとき、単に見るのではなく、暮らしをクリエイティブにみていきます。
じつは『みる』という言葉は同じ意味の言葉を除くと22種類あります。その『何種類×何文字=♯ナカソン』でまちを歩くかがとても大切になります」
中山道加納宿~御鮨街道での暮らし旅。いろいろな「みる」を使ってまちをみる
クリエイティブな目でまちを「みる」
具体的には、そこにしかないものをみる、面白がってみる、オーストラリア人女性になったつもりの目で「みる」、芸術家になったつもりの目で「みる」など、さまざまな視点で「みる」ことが大切だという。
♯ナカソン一つ目の例
古い民家に差し込むあたたかな光。この光を美しいと思える人の割合が増えれば、そのまちは必ず活性化すると中村さんは話す。
♯ナカソン二つ目の例
縁側ですぐに横になるため長ざぶを背負って農作業をするおばあさん。暮らしの中の愛情の感じられる光景、暮らしの美
中村:「道路を挟んだ右側では、サツマイモを育てられていて、縁側ではそのサツマイモを切って並べていらっしゃいます。そして、写真真ん中のかまどでサツマイモを蒸し、縁側で乾かしていたのです。
舗装されていたアスファルトの道路も、本質的な暮らしが大切と、剥がして土に戻しているところを何カ所か見つけられました。日本でも、本質が見える人がここにもいたんだなと歩きながら嬉しく思いました。
実はここの道で、おばあさんはそのサツマイモを200円で販売していました。ちょうどその時に、オーストラリアのご家族が歩いてきて、出会いたかった日本の暮らしを見つけたと嬉しそうに見ていたことを思い出します」
中村さんはまちの人と触れ合うことの大切さも伝える。地元の人と出逢い、地元の人に行くお店を紹介してもらって立ち寄ったら、お店の人に『旅行客が来た』と驚かれたことがあるという。
常連の集まる店では愉快な銭湯のおばちゃんの話を聞いたり、まちの面白い人の情報を教えてもらったりすることもできる。そのまちの暮らしに入ることで、ここの住民が何を望んでいるのか気付くことができる。
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