新しいプレーヤーと地域の魅せ方をデザインする 呉市豊町 井上明さん(後編)移住者の感性で魅せ方を変える

井上明合同会社よーそろ代表

2017.02.09広島県

 海と空、島々が引き合う美しい自然を持ち、昔ながらの町並みが残る御手洗地区に惹かれ、ボランティアガイドとして町を案内するようになった井上明さん。御手洗の資源でもある歴史的建物を生かし、「休む場所がほしい」という観光客のニーズに応えるため、2011年に江戸時代の建物を使った「船宿cafe若長」をオープンさせた。その後、オリジナルデザイン雑貨や作家作品などを扱う「薩摩藩船宿跡脇屋」や町の物産販売とお試しの小商いができるレンタルスペース「潮待ち館」、江戸時代の島の名物、鍋焼きうどんを提供する「尾収屋」も開業した。
 新たな事業を展開していく中で、まちづくりに関わる人をどのように呼び込み、輪を広げているのだろうか。

まちづくりのキーワードは個性を生かした表現力

3216
江戸から昭和初期の建物が残る御手洗。その中には下見板張りの洋館風の建物もある

 「船宿cafe若長」を皮切りに島で新たな事業を始めた井上さんは、店を展開するたび移住者(プレーヤー)を迎え入れ、任せていった。「潮待ち館」は井上さんの子どもが通っていた保育園の先生だった矢野さんの運営による。「尾収屋」は呉市内で約60年営んでいる製麺所の若女将、「薩摩藩船宿跡脇屋」は一部を近隣の作家作品を集めるギャラリーにした画家のご夫婦と、個性豊かな面々がそれぞれのストーリーを生かせる場所で活躍している。

 これは井上さんが店を展開するに当たり、地域資源の魅せ方の工夫、表現にこだわったためである。眠っている地域の魅力的資源を、新しい人の個性や感性によって多くの人に喜んでもらえる形で表現、発信したいと考えたのだ。

 たとえば「尾収屋」はその場所についていた屋号と、アルミ鍋を使った鍋焼きうどん提供という2つの条件以外はお任せにしたという。製麺所の味とそれらを丁寧に表現できる人物がいたからこそだが、今では茶そば、カレーうどんなどの独自の鍋焼きメニューにも派生し、観光客のリピーターも増えている。

鍋焼きうどん
尾収屋の鍋焼きうどん

井上:「御手洗では昔、「うろ」という行商舟が港に停泊している船に鍋焼きうどんを提供していました。その歴史的なストーリーを掘り起こし現代風にアレンジしたのがこの鍋焼きうどんです。さらに派生する商品ができると、鍋焼きうどんも引き立つし、新しい感性が加わりここにしかない表現ができます」

 井上さんがこれらの事業を通じて目指す町とは、どこにでもある場所ではなく、ここに来なければ分からない、ここに来たいと思われるような魅力がある場所だ。

 プレーヤーの感性で、資源を新たな魅せ方でつないでいけば、木が集まって森が生み出されるように、町全体の魅力がアップする。町全体のもつ歴史や暮らしといったストーリーも浮かび上がる・・・。

 地域資源を人の感性で輝かせ、唯一無二の魅力を持つまちづくりを目指したのである。

1 2 3 4

スポンサードリンク