新しいプレーヤーと地域の魅せ方をデザインする 呉市豊町 井上明さん(後編)移住者の感性で魅せ方を変える

井上明合同会社よーそろ代表

2017.02.09広島県

稼げる町の仕組みづくりと「御手洗ミュージアム構想」


御手洗ミュージアム構想会議風景
2016年に発足した御手洗ミュージアム構想委員会

 ここまでは井上さんが「ここに来たいと思われるような場所づくり」を目指し、地域の課題を解決しながら進めてきた観光振興の手法をうかがってきた。

 ではなぜ観光振興を図っているのか。その真意には井上さんの御手洗への思いが込められていた。

井上:「観光振興は私たちの最終的な目的ではありません。本当の目的はここに住む私たちが今も根付いている文化や暮らしに誇りを持ち、次の世代へ継承し、暮らして良かったと思える場所にすることです。そのためにはマンパワーが必要ですが、若い人を呼び込むには仕事が不可欠。その仕事づくりとして観光資源を磨くんです。ここには魅力ある観光資源があるので、それを生かせば町で稼げる仕事や仕組みを作り出し、それを持続していくことができるのではないかと考えました。今はまだ観光客を呼び込むよりも、訪れた人にきちんと価値を提供し、町の稼げる仕組みづくりなど、受け入れ体制を作り込んでいる段階です」

 例えば、地区内には無料で自由に出入りできる古い建物などの観光資源がいくつもある。お茶屋跡の建物なども、有料であってもきちんとしたストーリーや歴史を伝える価値を提供していけば観光客にも喜ばれるはずだという。

 実際、どの地域でも観光振興は町を活性化させる一つの手段である。だが、稼ぐというところまできちんと落とし込めていないと、人が多く訪れてにぎわったように見えても、地域にお金が落ちず、仕事も作りだすことができない。

 井上さんは仕事を作って移住者を迎え入れるという、その目的を明確に打ち出しながらまちづくりを進めてきた。今は重伝建の会のメンバーも、地域の10年後を思い描いて今動かなければいけないという意識を強くもつようになり、町全体で未来に向けたまちづくりが動き出している。

 2015年は地域で今一度課題を洗い出し、解決策を考える「御手洗みらい計画」のアンケートをまとめ、御手洗のまちなみ全体を博物館に見立てる「御手洗ミュージアム構想」を打ち出した。ここに続いている文化や歴史、暮らしを、作り込み過ぎずに見せる試みで、これこそが井上さんが目指す「ここにしかない」まちづくり、そして収益を上げるための仕組み作りである。

 その手始めに、2016年には「御手洗ミュージアム構想」委員会が発足した。呉広域商工会を中心に、重伝建を考える会、せとうち観光推進機構、広島県、呉市、建築家、外国人ライターなど26名の委員で構成。この会で話し合われた外部からの視点をブラッシュアップして地区に持ち帰り、方向性などの構想を練っていきたいという。

井上:「初回の会合ではインバウンドについて話し合われました。外国人にとっては何が魅力といえるのか、またそれらをどう見せていったらいいのかさまざまな角度の視点から多くの意見が出されました」

 また、重伝建を考える会でも、住民自らが主体となり、より多くの選択肢と持続的で柔軟な運営ができる組織が必要と考え、新しい町の法人組織の設立計画を進めている。

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