新しいプレーヤーと地域の魅せ方をデザインする 呉市豊町 井上明さん(後編)移住者の感性で魅せ方を変える

井上明合同会社よーそろ代表

2017.02.09広島県

世話好きでおおらかな島の人々が背中を後押し

 わずか4年の間に御手洗に4店舗を展開した井上さん。よそ者である井上さんがなぜこれだけスピーディーに新しい事業を次々と展開できたのか、不思議に思う人も多いのではないだろうか。古くからの町では「変わること」「変えること」に抵抗があることも少なくない。抵抗されることはなかったのだろうか。

井上:「それがまったくなかったですね。海に開けた港町で多くの人々が出入りした歴史があるからでしょうか、島の人々が気さくで温かい。よそ者の私に対しても『ごはん食べたんか』『片づけといたよ』『これ使いんさい』と世話好きで屈託がなく、ごく自然に受け入れてくれましたね。4軒の空き家も重伝建を考える会の人が世話をしてくれたり、活動しているうちに使ってもらえんかねとお願いされたりで」

 井上さんは、約2年前に重伝建を考える会の事務局長にも就任するほど地区の人から信頼を得ている。「信用できるかどうか分からないよそ者の自分をよく受け入れてくれた」と周囲の人に感謝するが、井上さんも島の人々の厚意に甘えていたばかりではないようだ。ここでは新しいことに対して拒否反応は少なかったが、それでも小さな行き違いは生じた。そのため井上さんは地域の人との緻密なコミュニケーションを心がけてきたという。

井上:「200人前後が集まるコンパクトな地区のため、良いことも悪いこともすぐ知れ渡ってしまいます。あの人が誤解しているらしいという噂話も耳に入りやすい。しっかり話し合い、誤解を解き、あるいはそれにかわる提案をするという形で理解を求めてきました」

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江戸時代に造られた高灯籠。北前船の西回り航路の風待ち・潮待ちの港として発展した往年を思わせるシンボル

 また事業においても、井上さんは「小さく始めて大きく変える」という柔軟なスタイルをとった。メニューや導線などに関しても、常に変化するニーズに応じて変えてきた。まずは行動を起こし、失敗や試行錯誤も繰り返しながらも、周囲の人の話にも耳を貸して、話し合って柔軟に対応していく井上さんの姿勢は、人々に好ましく思われたに違いない。

 何より井上さんと接していると島への愛はもちろん、その歴史や文化、そして人々の思いを尊重していることが伝わってくる。

 井上さんが地域の人々に受け入れられたのは、もちろん受け入れる人々の大らかさと温かさがあっただろう。そのうえで、町の人々と同じ熱意で今ある歴史や暮らしの宝を次世代に伝えたいと自分の言葉で語り、行動する井上さんの姿勢に、多くの人が信頼と共感を寄せていったのではないだろうか。

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