智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに

2017.07.07鳥取県

野原のcafeぽすと 鳥取県八頭郡智頭町早瀬271-3

智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに
小さな木造小学校のような懐かしさのある外観

智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに
店主の古谷直見さん

 ここはまさに野原のただ中にあるようなカフェだ。なぜ「ぽすと」かといえば、古くなった木造の元特定郵便局施設を利用しているからだ。オーナーは古谷(澤田)直見さん。

 直見さんは兵庫県尼崎市生まれだが、田舎暮らしに憧れ、単身で智頭にIターン。町内の古民家集落板井原地区で「野土花」という喫茶店を始めた人。その後、この地で現在のご主人古谷祥一郎さんと出会って結婚し、育児をしながらご主人の実家だった元郵便局を改装して「cafeぽすと」を始めたのである。『うさぎとかめのふたりごと』シリーズの文字絵作家の顔も持つ。

 お店はカフェといいながら地域のコミュニティスペースの役割も果たし、さまざまな講座やイベントなどが催されている。イベント開催と普通の喫茶店としての開店と両方あるのだが、現在は直見さんが子育て中ということもあり不定期開店である。

「毎月ウェブサイトにカレンダーを載せているので、それを確認してから来てくださいね」と、できる範囲での営業を強調している。

智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに
 自然栽培農業に取り組むご主人の古谷祥一郎さん

 カフェで提供している食事の食材を作っているのがご主人の古谷祥一郎さん。もともと東京で画廊経営などアートの分野で活躍してきたが、家を継ぐために帰省。しばらくは智頭町の文化財住宅「石谷家住宅」で学芸員として勤務し、60歳から農業を始めた。現在は自然栽培農法での農業に取り組んでいる。自然栽培は農薬や肥料を使わずに自然の力で土を育て、種を採って、育てていくという。有機肥料なども使用しないのがルールだ。

「ようやく米は自給できるようになってきたけれど、野菜類はまだ難しいね」と直見さんは笑う。そんな祥一郎さんだが、実はレオナール・フジタ(藤田嗣治)が晩年に過ごしたパリ郊外のアトリエの管理を任されていたという。凄腕のキュレーターなのだが、今は農に打ち込むその姿がすごい。

智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに
キッチンから店内を眺める

タルマーリー 八頭郡智頭町大字大背214-1

智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに
タルマーリーの主役、天然菌のパンたち

智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに
渡邉格さんと麻里子さん夫婦

 タルマーリーは自然栽培×天然菌でつくるパンが人気となって、全国、いや世界から注目を浴びた。「昨年まではテレビ効果が大きくて、来てくださるお客様の多さに製造が追いつかないほどの時期もありました」と女将の渡邉麻里子さんは言う。しかし、今はそれも落ち着いて、自分たちらしいパンづくりができるようになったとも。

 オーナーシェフの渡邉格(いたる)さんが、自然栽培の素材と天然の菌だけでつくるパンにこだわり、千葉から岡山の県北部へ、そしてこの地へと移ってきた。渡邉さんのこだわりは、自然の素材だけを使い、その土地、家、工房に住み着く天然の菌だけで自分が思うパンをつくりたいというものだ。一般的なパン屋さんとは違って、外から買ってくる菌は一切使わない。

「パンづくりはどこでやっても基本的に大変な作業だけど、天然の菌と向き合うのは本当に難しい」と言う。難しいけれど楽しくもあるのだろう。

 ここのパンはとにかくその弾力が違う。よくいうモチモチ感というものだ。一見無骨に見える姿のパンも多いけれど触るととても柔らかい。皮の部分は硬いといえば確かに硬いが、バリバリ硬いのではない。しっとりと吸い付くようなコシがある。中はとにかくモチモチだ。いろいろなものを混ぜて味をつくることを拒否しているので、材料の味がよく分かる。手でむしって口に運ぶだけで幸せになれる。ただの錯覚かも知れないが、この地で育った原料の麦たちの素直さが分かる気がする。素直だけど気は強い。それを保育園を改装した喫茶店でいただくのはある種の贅沢というものだろう。

智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに
この店のパンを目指してやってきたカップル

 タルマーリーがいきなり全国区になったのは、渡邉さんの著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』によるところも大きい。「腐らないものばかりの社会や食はおかしい」という考えが根本にあるマルクス主義的経済論であり、仕事哲学の書ともいえるものだ。「社会主義」といっても難しい理論の話ではなく、「働くこと」と「食の安全」がストレートに語られ、そのなかで「美味しいパンづくり」と「天然菌へのこだわりと愛着」が伝わってくる。奥さんとの二人三脚の話も面白い。これが2014年に韓国で翻訳され人気を博し、このパンを食べてみたいとたくさんのお客様が韓国からやってきたのである。その話が国内外に広がり、TVなどでも取り上げられ、思わぬ忙しさとなったという。

 なぜ、この地域に移住してきたかといえば単純で、「地元の小麦を使うために大きな製粉機を設置したい」「ビールをつくる水を身近な場所に得たい」ということだったと言う。

 渡邉さんの興味は今やパンだけにとどまらず、ジビエ料理とビールづくりが目下最大の興味の対象だ。

智頭街道を「自然を食べる旅」の周遊ルートに
タルマーリー近くには田んぼが広がる穏やかな風景がある

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