東京都八王子市でのMICE誘致における「観光要素」の寄与可能性 — ゼミナールでの教育活動を通じて —

古本泰之杏林大学観光交流文化学科准教授

2019.09.05東京都

東京都八王子市でのMICE誘致における「観光要素」の寄与可能性 — ゼミナールでの教育活動を通じて —
ユニークベニュー案「八王子市内庭園でのお茶会と伝統芸能体験」より

八王子ならではの魅力から生まれたツアーとユニークベニュー

① 八王子における観光資源の魅力に関するアンケート結果

 想定よりも回答数(n=108)が伸びず、また回答者に若年層への偏りが見られる結果となったが、八王子市という名前を「知っている」と回答した回答者は全体の約30%、魅力ある観光資源は「食」「温泉」(入浴体験)「自然」が上位(5点満点中4点代)となり、その次のゾーンに八王子車人形・芸者衆といった「伝統文化」(5点満点中3点代後半)が位置することが明らかになった。

② ツアー・ユニークベニューに求められるもの

 既存研究・資料分析および関係団体へのヒアリング調査では以下の示唆がもたらされた。

 ●場所性と連動した「ストーリー」の重要性と、オリジナリティを生み出す地域内関係者との協力体制の構築:八王子は中小企業が集積する「ものづくり」の街という特性

 ●ターゲットの設定とそのニーズに応じたプランの提供

 ●レセプションやツアーにおいて「ここならでは」という資源をできるだけ利活用し、参加者の満足度を引き出す付加価値を生み出すユニークさ・盛り上げポイントの追求(施設の夜間開放や地域内マスコットの活用など)

 ●居酒屋などナイトライフの活用

③ 企画の設置

 ①②の結果を受けて、ものづくりを取り扱う施設を利活用した「学び」「発見」を中心とするMICE来訪者向けツアーの企画案を2件(半日・終日)、自然体験を軸とした同伴者向けツアーの企画案2件(半日・終日)「八王子市内庭園でのお茶会と伝統芸能体験」「高尾山での居合い切り鑑賞と精進料理」という2件のユニークベニュー案を企画した。

④ 企画案の修正と評価

 これらの提案を踏まえた第2回目のウェブアンケート調査(n=192)を行った結果、ツアー企画では「同伴者連れ半日ツアー案」、ユニークベニュー企画では「高尾山で居合い切り鑑賞と精進料理」への評価が高く、高尾山と自然文化を組み合わせたプログラムの展開可能性があると言える。また、居酒屋などのナイトライフへの関心も引き続き高かった。

東京都八王子市でのMICE誘致における「観光要素」の寄与可能性 — ゼミナールでの教育活動を通じて —
ユニークベニュー・ツアー案作成のため、「八王子車人形」の五代目家元西川古柳氏に学生がヒアリング調査をしている

提案の実現化に向けた課題と今後

 第一に既に八王子観光コンベンション協会などで構想されているプログラムとの差別化が必要となる。そのため2019年度も「学生企画事業補助金」の採択を受け、アンケート結果の分析継続を踏まえた独自性の高いモニターツアーの実現を、他大学との連携も前提に目指す取り組みを行っている。また、コスト面について観光関連産業への電話インタビュー等を行って調査を行い一定の目処は立っているが、関係団体のご協力もいただきつつ、さらに細部を調整する必要がある。

 第二に、採択2年目での実現可能性を高める上でのクオリティコントロールが求められる。学生活動という「目新しさ」が成果の未熟さを一定量補ってきた面があり、関係団体のご協力を得ながら完成度を高めていきたい。その中で、観光情報の提供における言語面での課題解決策も検討していく予定である。

 今回の調査を通じて、八王子市においてプレ・ポストコンベンションツアーやユニークベニューの企画という形で地域内の観光資源・施設を利活用することが、MICE来訪者に対する魅力となり得る可能性が明らかになった。また、関係団体とのヒアリング調査において、「東京都」といった広域圏でMICE誘致を捉えるというアイディアをいただいたが、他地域での取り組みとの連動において「自然」「伝統文化」といった側面で今回の成果物が活用可能であると考える。

著者プロフィール

古本泰之

古本泰之杏林大学観光交流文化学科准教授

杏林大学観光交流文化学科准教授。広島県広島市生まれ。1999年立教大学社会学部観光学科卒業。2005年立教大学大学院観光学研究科観光学専攻博士課程後期課程単位取得退学、杏林大学に着任。杏林大学地域交流推進室室長を兼務。研究テーマは観光開発論、観光文化施設論。

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