新たな観光ホスピタリティ観と人材育成

佐藤博康松本大学総合経営学部観光ホスピタリティ学科教授

2012.12.16

「ホスピタリティ」という言葉のあいまいさ

 観光の発展には人の役割が欠かせない。装置としてのハードウェアや自然環境等の舞台の重要性はもちろんであるが、観光活動に期待される感動や共感には何よりも人の介在が不可欠である。ではその人とはどのような人物なのか。

 言うまでもなく、昨今「ホスピタリティ」という言葉が観光のさまざまなシーンで使われるようになった。しかしながらその意味するところは一様ではない。特に日本語で表現する際に「おもてなし」という言葉と同義で使われることがあるが、本来のホスピタリティという意味とは少々異なるようだ。

 日本語の「おもてなし」は、特定の主客の関係におけるマナーであったり心遣いであったり、対象や主人公が明確であるのに対して、「ホスピタリティ」は目に見えない空間や広い人間関係をも含んでいる。さらに狭義で言えば、ホテルや旅館という宿泊産業のビジネスを指す。

 こうしたあいまいさから、わが国の場合ホスピタリティを定義したりあるいは指導の対象にしたりする場合に、どこにその視点を置くかによって内容が異なっている。

観光と福祉を融合させた観光ホスピタリティ

 筆者が属する大学では、ホスピタリティを普遍的な人間関係としてとらえ、これを観光事業と結びつける人材育成のあり方を研究している。その結果、観光と福祉(人の幸福の追求)を融合させた観光ホスピタリティのあり方を提案している。

 社会の高齢化や、さまざまな障がいの結果安心して旅行に出られない人々にも観光を楽しんでもらえるように知恵を若い人々に考えてもらい、その視点で社会貢献するという意味もここに含まれている。いわゆる宿泊業だけにとらわれず、あるいはまた「おもてなし」だけにとらわれない観光のあり方を考えるよい切り口を与えてくれている。

 また、若者たちの持っている純粋性や正義感といったものが大いに反映されて、個々の素質を活かす肯定的な人材育成が可能となっている。

 つまり、いわゆるホスピタリティ産業で指摘されるような清潔感や気配り、機転、あるいは人一倍の配慮精神を身につけた人材はもとより、相手の存在が自分自身と重なってくるような想像力を持った人物がイメージされる。

 さらには、状況判断はもとより心のひだを理解しながら旅行者に観光活動を楽しんでもらう、その姿を見て喜びや生き甲斐を感じる、そうした人物がここでいう人材と考えられている。

 問題は、こうして育つ人材に、わが国の観光産業がどのような活躍の場を提供できるか。今後のわが国の観光産業の発展や可能性を考える上で大変興味深いところである。

著者プロフィール

佐藤博康

佐藤博康松本大学総合経営学部観光ホスピタリティ学科教授

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