地域でのテイスティング・ツアーのすすめ

丹治朋子川村学園女子大学生活創造学部観光文化学科准教授

2014.02.01

「食文化」が価値を持つ

 昨年12月、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録された。あまり報道されていないが、正式には末尾に「-正月を例として-」という文言が加わる。日本の食文化そのものが人類にとってかけがえのないものだと評価されたといえよう。それと同時に、この登録は、和食文化の消滅が危惧され、保護の必要があることをも意味している。

 観光における食の役割を大別すると、「栄養補給」と「楽しみ」に分けられる。観光という一定時間の行動においては、やがて空腹になり、「栄養補給」が必要となる。観光地における消費行動の多くは代替性が高いものであるが、食事欲求に関しては別のもので代替することは難しく、また、現地調達をするケースが多い。つまり、一定時間以上滞在すると必ず発生する需要ともいえる。

 他方の「楽しみ」については、食事そのものを楽しむ場合と、食事の空間を楽しむ場合とがある。

 前者は、例えば、「日常的には食べないおいしい(ぜいたくな)ものを食べる」、「その土地固有の(珍しい)ものを食べる」、「話題のものを食べる」などである。流通システムが発達し、都市に地方のアンテナショップがひしめく現代においては、全国の食材を比較的簡単に入手できる。

 しかし、鮮度や価格を考えると現地で食べる方が理にかなっている。また、どのような空間で食べるかも味を左右する要因となり、それが後者の食事の空間と結びつく。

 空間の楽しみ方としては、「日常とは異なる空間を楽しむ」、「同行者との交流を楽しむ」、「地域の人々との交流を楽しむ」、「休息をとる場として利用する」などがある。その際、飲食がメインでないことも大いにあり得る。

「食」を観光に活用する

 「食」を観光に活用することによって、経済効果が高まるだけでなく、文化的な効果も期待できる。地域で失われた、あるいは失われつつある食文化の発掘をしたり、新たな調理法など考案したりすることによって文化の保護や新たな文化の創出が期待できる。

 ただし、地域と縁もゆかりもないものを創出しても、それを定着させるのは難しい。地域と結びついたストーリーが必要なのである。さらには、「食」の観光資源のPRも忘れてはならない。

 観光客にとって1回の食事は大変貴重である。モノのほとんどは、気に入ったものを大量に購入できるが、胃袋の大きさには限りがある。その貴重な1度の食事で「失敗」しないために、あらゆる情報の提供が必要となる。そこで、一番確実なのは試食であろう。

 最後に、地域の食を紹介する興味深い事例を紹介する。

 これはニューヨークのマンハッタンでFoods of New York Toursという一企業が商品化しているフード&カルチャー・ウォーキング・ツアーである。ランチの時間をはさんだ3時間程度、レストランや食料品店を中心に徒歩で地域をめぐりながら各店の「こだわり」をガイドが案内する。そして、移動中に周辺の歴史や景観についても紹介しており、食文化との関連も楽しく学べるのである。

 厳選された訪問先では、リーズナブルでおいしいものとの出会いが約束されており、参加者の評価は実に高い。企画している代表と地域の人々との信頼関係によって成立するツアーであるが、このようなツアーを各地で開催できたら、地域の食をプレゼンテーションする最高の機会になるのではないだろうか。

著者プロフィール

丹治朋子

丹治朋子川村学園女子大学生活創造学部観光文化学科准教授

スポンサードリンク