「open! architecture(オープン・アーキテクチャー)」 ―建物見学という、新しい観光スタイルの可能性

斉藤理山口県立大学教授

2017.12.13東京都

斉藤理 open! architecture
求道会館(東京都指定有形文化財・東京都文京区)にて、改修を手がけた建築家の話を聞く

open! architectureとは

 「open! architecture」イベントは、日頃あまり見ることのできない建物を公開・見学会を開催し、来訪者も所有者も一緒になって建物や街並みの魅力を再認識していこうという市民参加型のイベントである。

 建物の見学だからといって、なにも専門的で難しいことを扱おうというのではない。個々の建物に見え隠れする、つくり手や所有者、建物に関わる方にとっての「誇り」といえる部分、これをつぶさに拝見していこう、という試みだ。「誇り」という言葉をあえて使うのは、これが、建物のつくり手と建物のつかい手とをつなぐ共通のベースになり得るだろうと考えるからだ。建物のこだわりや誇りということであれば、専門家でなくとも、大なり小なり誰しも口にすることができるし、建物を訪れた来訪者の皆さんにも大変分かり易い。いうなれば、「誇り」は建物を囲む人々をつなぐ重要なかすがいである。

 さらにそうした「誇り」を、それぞれの敷地内でとどめることなく、広くオープンにすることによって、それがまち全体の「誇り」、ひいては、まちの大きな文化的資本となっていくのではないか、私たちはそうした流れが起きることを期待している。単に見学者にツアーサービスを提供することだけが目的ではなく、私たちの身近な環境をこれまでとは違った角度から見直す機会として「open! architecture」は位置付けられる。「公開する側/見学する側」が協働し、「まちの魅力を知り、将来のビジョンを考えるきっかけ」を創出していこうというのが、open! architectureのモットーだ。

なぜ建物を公開するか

 おやっ、と思った方もおられるかもしれないが、“オープンアーキテクチャー”とは、もちろんIT関連でもお馴染みの言葉だ。プログラムの設計思想をあえて公開することで、単独では成し得ない大きな進歩を促し、周り巡って自らの利益にもつながる、という考え方。これは、私たちのプロジェクトでもまったく同じことがいえる。所有者だけでなく、あるいは専門家だけでなく、広く「誇り」をオープンにすることで、これは大きな付加価値となってまちにかえってくる、こんなことを期待している。

 ところが、である。この理想の青写真がすんなり現実に当てはまるかというと、建築物の場合はなかなか簡単ではない。open! architecture は、2007年から準備を進め翌年からおよそわが国で初めての建物一斉公開イベントをスタートしたが、開催当初は都内のわずか23軒ほどの建物で実現しただけであった。公開見学会開催候補としてリストアップしたもののうち、半分は見事に断られてしまった。「公開」というと、どっと来訪者が押し寄せる、というイメージを持たれる方が多かったためだ。確かに、「建物を観る」というと、専門家の視察か、さもなくばウォーキンググループが大挙して訪れる、という認識がまだまだ強く、そう思われたのは自然なことである。

 こうした経験を経ながら、見学会の詳細を建物の所有者の方と共に時間を掛けて組み立てていったり、基本的に解説をつけながらのガイドツアー式にして所有者の想いにじっくりと耳を傾けたり、といったopen! architectureならではの公開・見学スタイルが確立してきたのである。 あらゆる観光コンテンツの開拓にも言えることだろうが、とりわけ見学対象の施設関係者の皆さんとの対話の過程は、「そもそも、なぜ公開するのか」「公開するとどのようなメリットがあるのか」という重要なテーマを、企画者も施設側も相互認識できる貴重な時間であると思っている。このプロセスの有無で、見学会の意味合いは大きく変わってくるのだ。

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