「open! architecture(オープン・アーキテクチャー)」 ―建物見学という、新しい観光スタイルの可能性

斉藤理山口県立大学教授

2017.12.13東京都

持続可能な観光スタイルの先駆けとして

 open! architectureの参加者アンケートによると(2013年、中央区内で実施。N=126)、建物見学をより楽しむために今後、望むこととして、「見学・公開機会を増やしていく」(約5割)、「解説ガイドの充実化」(4割)などの声が大きく、建物の公開・見学の量・質の拡充がさらに必要であることが伺える。しかも、「自らも、こうしたイベントに主体的に協力したいか」との問いかけには、約8割の人が、積極的な回答を寄せている。open! architectureを通じて、単に来訪者としてのみならず、今度は自らも主体的に、と考えるきっかけとなっているとすれば、今後、わが国の観光まちづくりを進めていく上で、有益な方向性を築けているのではないかと考えている。

 こうした流れを活かしていくためには、私たちの企画に加え、すでに各地域・建物で行われている見学会等の諸プログラムもうまく連携させていくことが有効なのだろうと考えている。個別に行われているプログラムとの相互連携を進め、内容も互いにより充実化させていく。このことのスケールメリットは大きい。とりわけ、インバウンド促進の上では効果性が高いだろう。結果的に、「コミュニティ単位の小さな建物公開イベントをつなぐ仕組み」が整えば、建物見学がヒンジとなって、ひとつの文化観光ネットワークが形成され、地域連携および都市再生にとっても有益な事業となり得るだろうと思われる。建物単位で捉えるのではなく、「公開・見学」を通して建物と社会とをつなぎ、その価値を共有していく包括的なシステムの一翼を担うことを目指している。

 昨今の欧州の観光評価モデルに見られるように、観光の評価尺度は、来訪者/サービス提供側という「ホスピタリティ」をめぐる単線的な図式ではなく、より広範なステークホルダーを範疇とするものに変容しつつある。単に来訪者数の多寡や満足度をもって評価する考え方は過去のものになりつつあり、例えば、観光促進とともに、コミュニティの質向上にどれほど貢献するか、適正にインフラ整備が進められているか、環境負荷はないか、雇用創出にどれほど影響しているか、さらに地域の文化的、歴史的遺産の維持活用にどれほど効果性が認められるか、といった多面的尺度から持続可能な観光促進モデルが模索されている。

 open! architectureは、こうしたモデルを念頭に、文化観光を通した文化資源維持やコミュニティ形成の促進、あるいは、まちの新たなブランド性の創出、集客性の向上、こうした多面的なゴールを目指しつつ、社会的に貢献できるプログラムであり続けたいと思っている。

 これらのサイクルを滑らかに進める潤滑油はopen! architectureの場合、「誇り」である。オリンピックの足音も近づいてきたが、日本を訪れる多くの来訪者は、果たしてどのような「誇り」を日本の街角に見つけ、来日の印象を深くしていくことができるか、こんなことを思い浮かべながら、次のプログラム展開を考えている。

<リンク>
open! architecture 
open! architecture「建築めぐりガイド -東京都港区編-」

著者プロフィール

斉藤理

斉藤理山口県立大学教授

山口県立大学教授、中央大学社会科学研究所客員研究員。博士(工学)。
東京大学大学院建築学専攻修了後、上智大学・慶應義塾大学などで講師を務め、2011年より山口県立大学国際文化学部准教授、2016年より現職。その間、ベルリン工科大学記念物保護研究所に留学した成果を生かしつつ、 建築物を中心とした文化遺産の利活用や広く一般への公開を促す社会活動に力を入れ、2007年より日本初の建物一斉公開イベントopen! architectureを企画・監修。その他、2007~2009年、まちを歩いて紹介するテレビ番組の監修、ならびに「旅人」として出演し話題に。2010年、東京都観光まちづくりアドバイザー。現在、山口県観光審議会委員(会長)として、地域文化資源を活用した観光まちづくりにも取り組む。2017年、行動論的分析を通した新しい観光まちづくり手法を提起し、日本国際文化学会・第7回平野健一郎賞を受賞。一般書に、『東京建築ガイドマップ 明治大正昭和』(2007・共著)などがある。

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