「open! architecture(オープン・アーキテクチャー)」 ―建物見学という、新しい観光スタイルの可能性

斉藤理山口県立大学教授

2017.12.13東京都

新たなSITコンテンツを整備する

斉藤理 open! architecture
日本橋三越にて地階免震装置を見学(左)、旧内藤多仲(東京タワーの設計者)自邸で研究者の話に聞き入る参加者(右)

 ところで、「建物を見学する」、この関心層はどのような方々かというと、「専門家向けの研修」ほどには専門性を追求しないが、しかし、いわゆる「マス観光/ Mass Tourism」のような名所めぐりを目的とする訳でもない、という新しい中間層に位置づけられる。これを観光分野の言葉で示せば、一般的な観光だけではなく、文化観光や体験を盛り込み、テーマ性・趣味性の高い観光「SIT / Special Interest Tour」の一種であり、これはなにも建物見学のみならず、観光全般において目下大きな潮流を形成しつつある。

 これは従来の「マス観光」との対比から「オルタナティヴ・ツーリズム」とも呼ばれるが、この裾野はじつはかなり広い、ということを実感している。また街並み保存といったまちづくり事業の動きの中でも、建造物を文化観光資源として開拓していく意識が年々高まりを見せている。それに従い、観光の視点を持ちながら建築物の文化的背景を的確に評価・解説(ガイディング)できる人材の育成や見学プログラム手法の構築が求められていると言えるだろう。しかし今のところ、この新たに興隆するSIT層へ向けた解説ツールも、解説に当たる人材も一般的には十分に整っていない。この点の改善が課題だ。

 私たちは、そうした思いから、2007年以来open! architecture実行委員会(のべ30名程の有志のグループ)をつくり、すでに延べ数百回余りの見学会を企画・開催し、2万人近くの来訪者に建築物を紹介しながら、実地にSITコンテンツの企画運営のノウハウを蓄積してきた。開催地も東京を皮切りに、埼玉、神奈川、長野、大阪、広島など各地に拡がって、ほぼあらゆるケースに対応できるプロトコル・モデルが整備されたと考えている。

 企画に際しては、建築の価値を①建物そのものの造形的特質、②周辺地域との関係や歴史的文脈から見出される意味・位置づけ、③所有者等、関係者から語られる個別のエピソード、に大きく三分類しながら情報を整理し、私たち企画運営側は、①や②の情報を所有者に提供し、逆に③の情報を教えて頂きながらこれらを総合して見学会における解説資料やルートなどを組み立てていくという流れだ。

 また、1回の見学につき20~30名の参加者を1ユニットとし、時間配分においても、これらの情報をできるだけ分かり易く来訪者に伝えられるよう配慮している。

 こうしたプロトコルを整備することで、限られたスタッフ数でも効率よく運営することが可能となり、従来なかなか聞くことのなかった建築の「誇り」に関する情報を広く容易に紹介することができるようになった。現在、私たちのプロトコル整備はひと段落し、各地において同様の企画を考えている自治体、グループ等への企画協力に力を入れている。open! architecture企画は、これからも是非より多くの地域に拡がっていって欲しいと思う。

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