小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ10 こんな時どうする!? 〜ガイド中のトラブル&失敗談〜

菊間彰一般社団法人をかしや代表理事

2019.04.03山梨県新潟県

ガイド人生最大の失敗・・・

 最後の話は、私の19年間のガイド人生最大の失敗についてです。時は2000年、ガイドになって数か月の新米だったころです。場所は先の話と同じ富士山麓。富士山麓には「青木ヶ原樹海」という森があります。何やら世間的にはいろんな噂のある樹海ですが、実はとても綺麗な森でもあるのです。

 そして樹海の中には、富士山の溶岩が固まってできた「溶岩洞窟」があります。中学生をその洞窟に案内するのがその時の仕事でした。あまり知られていないのですが、富士山麓には140本とも160本とも言われるたくさんの溶岩洞窟があるのです。

4 洞窟ガイド時代の写真。後列真ん中が筆者(青木ヶ原樹海の溶岩洞窟にて)

 その日の私の担当は「氷の洞窟」でした。この洞窟はかなり大きくて天井も高く、立ったまま進むことができます。しかし途中から床面が全面氷となるため、しゃがんだままの姿勢でよちよちとアヒルのように歩くのです。

 そして事件は起きました。私のすぐ後ろについていた女の子が足を滑らせ、冷たい氷に手をついたのです。しゃがんでいたので全くケガはないのですが、氷の上に水がたまっていたのでとても冷たく、びっくりしてパニック状態に陥ってしまいました。その子は体が震え手も震え、もはや歩くこともできません。私はガイドとしての使命感に燃え、その子を助けることにしました。

「大丈夫かー! 今助けるぞ!!」

 私はその子を抱きかかえたりおんぶしたりしながら、無事に洞窟の外に連れだしました。明るい場所に出たことでその子は落ち着きを取り戻し、担任の先生に無事引き渡すことができました。先生曰く、その子はパニックになりやすい子だったようで。

 めでたし、めでたし。

・・・さて、この後何が起こったでしょうか?

 私は洞窟の中に取って返しました。すると、他の生徒たちが慌てふためき、半ばパニック状態に陥っていたのです。それはそうです、真っ暗で冷たい洞窟の中に置き去りにされたのですから。この時のツアーでは、中学生1クラスを私一人がガイドをしていました。その唯一のガイドが一人の生徒とともにいなくなってしまったのです。しかも何やら必死の形相で。いくら引率の先生がいるとはいえ、子どもたちの心中察するに余りあります。

「やってもうた~」

 その時ようやく私は気づきました。ガイドは、どんな場合でもお客さん全員を見守らなくてはなりません。たった一人のために、全員を犠牲にすることは許されないのです。その時の私は必死になりすぎて、そんな簡単な原則も忘れてしまったのです。こういう場合、本来であればパニックになった子の様子を冷静に観察したのち、引率の先生に任せるべきでした。ガイドである私は一人の生徒だけではなく、残りの39人をも守らなければいけないのです。

 これが、私のガイド人生最大の失敗です。幸いこの時はけが人もなく、その後残りの生徒のフォローをし、無事にツアーを終えることができました。が、一歩間違えば大きな事故になっていたかもしれません。この一件以来私は「お客さんを誰一人犠牲にしない」というプロガイドとしてのスタンスを確立したのでした。今となってはほろ苦い思い出です。

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2000年当時、ガイド1年目の筆者(富士山麓にて)

失敗から学ぶ大切さ

 いかがだったでしょうか? 誰にでも失敗はあり落ち込むこともあると思います。しかし、それはまた大きな学びのチャンスでもあります。失敗しても、原因と対策をしっかりと考えることでさらなるレベルアップにつなげることができます。失敗は成功の母。みなさんもどうぞ失敗を糧に、より良いガイドを目指してください。

<過去の連載>
ステップ1 小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ
ステップ2 まち独自の魅力の見つけ方
ステップ3 ガイドのためのフィールド調査 事前に確認しておきたい4つのポイントとは?
ステップ4 「体験」を通じて伝える方法 「アクティビティ」を使ってみよう
ステップ5 ガイドに必要な「あり方」 大切な3つのスタンスとは
ステップ6 来るのはどんなお客様? 対象者理解に必要な5つの視点
ステップ7 お客さんとのコミュニケーション 自由に意見やアイデアが出る場づくり4つのポイントとは?
ステップ8 小道具の活用 おさえておきたい3つのポイントとは
ステップ9 これだけはすべからず!

著者プロフィール

菊間彰

菊間彰一般社団法人をかしや代表理事

1974年生まれ。「一般社団法人をかしや」代表理事。環境教育と自然ガイド(インタープリテーション)が専門。ロープワークやナイフワーク、火起こしなどアウトドアスキル全般も得意。20代はじめに猿岩石に影響されバックパッカーとして東南アジアを巡る。その後、富士山麓、沖繩、名古屋、新潟など全国で自然に関わる仕事をしたのち2008年より愛媛県今治市に移住「をかしや」を起業。自然体験のノウハウをベースとした、行政向け、企業向け、一般向け研修を多数実施。「まごころこめて、ほんものを提供する」がモットー。

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