小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ10 こんな時どうする!? 〜ガイド中のトラブル&失敗談〜
ガイド中なのに〇〇した話・・・
次の話は、新潟よりもっと前の話。私は2000年からガイドをしているのですが、少し経験を積んだ2001~2002年ごろだったかと思います。
当時、私は富士山麓のガイドでした。登山のガイドというよりも、富士山麓の森や洞窟などを主に案内していました。ハイシーズンになると、来る日も来る日も、修学旅行にやってきた中学生を森の中に案内していました。
そんなある日「事件」は起こりました。その日の私は、朝から体調が優れませんでした。森を案内してもいまいちテンションが上がりません。でもそんな時こそ、ガイドとしての力量が試されます。前回お伝えしたように雨の日や条件が悪い時ほど、ガイドはテンション高めで振る舞うものです。それによって参加者だけでなく、自分をも鼓舞するのです。「大丈夫、大丈夫!」そう自分に言い聞かせ、普段よりテンション高めでガイドしていました。
しかしその時はやってきました。差し込むような強烈な腹痛とともに・・・猛烈な便意に襲われたのです。ツアーが始まってからなんとかやり過ごしてきたのとは比べ物にならない、かつてないビッグウェーブです。
「こ、これはヒジョーにまずい! もはやこれまで!!」
そう悟った私は、表面上は平静を装いながらも、脂汗をたらし、どうしたものか必死に考えました。
そして妙案が浮かびました。
「みんな座って。ここでちょっと、森の音を聞いてみようか」
生徒たちにそう呼びかけ、もっともらしく解説します。
「この場所はね、この辺で一番深い森なんだよ。樹も大きいし、シカやサル、そしてクマだっている」
「だからこの場所で、深い森の雰囲気を味わってみよう。しゃべらずに目をつぶって、少し森の音を聞いてみよう」
ガイドのそんな言葉がけに、都会の生徒たちは目をキラキラさせています。
「よし、イケル!」私は確信しそのまま続けます。
「それじゃあ目をつぶって。僕がいいと言うまで、しゃべらずにそのまま森の音を聞いてみて」
生徒たちが全員目をつぶり、耳を傾け始めたのを確認するやいなや、私は少し離れた物陰に猛ダッシュ! そして無事に「キジ打ち」を終え、事なきを得たのでした。
しかし、生徒たちがざわざわしています。どうやら目を開けた子がいて、私がいないのに気づいたようです。
「おーい菊ちゃん、どこ?」「まさか、ウ○コ」
・・・なかなかスルドい子がいるものです。私はちょっと動揺しながらも何食わぬ顔をして、彼らの前に顔を見せます。忘れずにあるものを一握り持って。
「いやー、心配させて悪かったね。実はね、これをみんなに見せたくて取りにいってたんだよ。」
そう言って、私は手の中のものを彼らに見せます。そこには、ふわふわのスポンジ状になった「朽ち木」があります。そしてそれをぎゅっと握ると、朽ち木から本物のスポンジのように水がしたたり落ちるのです。
深い森に佇むブナの木。やがて倒れて朽ちていきます
「見てごらん! これは朽ち木。以前この森にそびえていた大木の一部。木は何百年も生き、やがて寿命をむかえて倒れる。倒れた木は虫たちに食べられ、キノコたちに分解され、朽ち木になる。そしてついには水分と養分をたっぷり含んだ土へと還る。そんな風にして、倒れた樹の命は次の世代の森を育むんだ」
子どもたちは潤んだ瞳で私と朽ち木を見つめています。そして周りを見回し森の空気を胸いっぱいに吸い込んでいます。どの子の表情も満足感でいっぱいなのがありありと見て取れるではありませんか。
・・・我ながら名演技です。「俺、天才かもしれない」その時はそう思いましたとも、ええ。
この朽ち木の話は森のガイドの鉄板ネタなのですが、それがあの大ピンチを救ってくれるとは夢にも思いませんでした。何より、過去にも先生が子どもたちをつれてこそっと用を足しに行くことはありましたが、まさかそれがガイドである自分の身に降りかかるとは・・・。
人生、何が起こるかわからないものです。
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