連載 「地域ブランドのつくりかた」成功のための12のハードル ~その6.地域ブランドづくりにとって役に立つ「マーケティング」という大きなハードル

福井隆東京農工大学大学院客員教授・地域生存支援有限責任事業組合代表・NPO法人エコツーリズムセンター理事

2018.10.25島根県福岡県

 普通の暮らしにある営みが旅になると考えた久留米市

福井隆 地域ブランド
久留米ほとめきまち旅博覧会のパンフレット

 かつて、「そば打ち体験」や「田植体験」が観光コンテンツにおいて全国に流行しました。他の地域でできることをやっても、結局は価格競争に陥って長続きしないでしょう。

 地域ブランドづくりのマーケティングにおいて重要なことは、「○○地域でなくてはいけない理由」なのです。これは、地域「モノ」でも「コト」でも同様です。

 日本人に人気のハワイ、温暖な南の海のビーチでくつろぎマリンスポーツを楽しむ。ハワイの独特の文化を満喫し、ハワイらしい食べ物で満足する。他の地域では代替えできないから訪れるわけで、観光客にとってはココでなくてはいけない理由があって人気になっているのです。 

有名な地域ブランドである「関アジ、関サバ」も同様に、大分県にある豊後水道の佐賀関周辺の特別の生息環境に棲んでいるアジやサバを漁師が一本釣りで釣り上げ水揚げされるものだけがこの呼称を使えることから、この「モノ」でなくてはいけないから人気になっているのです。

 商品開発や販売、あるいは観光におけるマーケティングで重要なのは、代替えがきかない「ココでなくてはいけない魅力のある理由」なのです。

 久留米「まち旅®」は10年以上にわたって、いわゆる着地型観光のコンテンツを提供し、大きな成果を上げてきました。

 久留米市は、いわゆる観光地ではありません。観光地でないところに新幹線の新しい駅ができる、このことをチャンスと捉え交流拡大を目指しました。2011年に開業した九州新幹線の久留米駅開業を見据え、地域活性化を目指して取り組みを始めました。

 久留米市のNPO法人「久留米ブランド研究会」が主催し、普段の観光では味わえない池町川の飲食店散策や体験プログラムなどが人気で、これまでに延べ約1万8,000人が参加したそうです。

 新幹線の駅ができる前の試みとして2008年に行われた初めてのまち旅では、ガイドブックの表紙に「商店街のコロッケだって、旅になる。」と謳われていました。久留米市民の生活の中にある営みが旅になると考えたのです。

 久留米市民の普通の暮らしの中にある営みを取り上げ、旅のプログラムとして磨き上げ、「まち旅®」として編集し提供することによって成果を上げてきました。加えて商品開発においては、久留米ブランド研究会の事務局が開発をするのではなく、市民からの公募でプログラムを決めていることもマーケティング上の重要な仕掛けとなっています。

福井隆 地域ブランド
久留米ブランド研究会の資料より

 研究会の資料に右の図が示されています。その中に、「まち旅は、産業と市民との「接点」」と謳われています。すなわち、久留米の市民が関わる生業、産業を市民が知り、誇りを持って観光客との接点を生み出す仕掛けになっているのです。

 例えば、「まち旅®」のプログラム23「レザー?キャンバス? 世界にひとつのマイスニーカーづくり」、これは地域の企業である(株)ムーンスターが提供するもので、一本の生産ラインをまち旅のために止め、参加者が世界に一つのスニーカーづくりを体験するプログラムです。

 地域にある産業をそこに住んでいる人が知る機会は少ないものです。(株)ムーンスターは、コンバースなどの有名ブランドの靴を製造する企業として業界では名が知られているのですが、久留米市民にはスニーカーをつくる会社として認識されている程度でした。しかし(株)ムーンスターは、石炭の炭鉱で履く地下足袋から靴底にゴムを貼る特殊な製法を開発したことによりスニーカーを生み出した企業の一つなのです。

地域ブランド 福井隆
久留米まち旅で人気のプログラム

 この地域の産業から生み出された人気のスニーカーを、自分だけの好みで生地を選び作れることは大いに喜びが生まれるだけでなく自慢のコトにつながります。結果的に、とても人気のプログラムとして毎年催行されています。

 毎年秋に行われる「まち旅®」では、80本のプログラムが催行されるのですが、ほぼ毎年催行率100パーセントという人気を誇っており、中には、「ヒデキさんと行く! 池町川飲みさるきツアー」のように毎年採用され、遂には通年催行されるプログラムになった人気のツアーも生まれています。

 このように、久留米の「まち旅®」は住民自らが自分たちの暮らしを見つめなおし、その中で自慢できる旅を自ら生み出し、参加することによってファンになってしまう(参加者自らが、販売促進までしてしまう)交流拡大のためのプログラムとして機能しているところが重要なのです。

 すなわち、全てのプログラムが「久留米でなくてはできない体験」となっており、同時に「こんなコトに参加したかった」と、外来者だけでなく市民も参加するところに大きな特徴があります。久留米「まち旅®」は、秋になると毎年開催される(特に人気のプログラムは通年の「いつでもまち旅」)人気の交流事業となり、地域ブランドと言ってよい着地型観光プログラムとなっています。

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