海友舎を使いながら残そう! 保全・活用しながら地域の交流拠点として再生、観光資源としての魅力を創出する「ぐるぐる海友舎プロジェクト」
「こつこつ」の積み重ねで壊される存在から地域の宝へ
その活動の始まりは片付けと掃除だったという。
掃除では当時の建築技術や美を発見できるのも醍醐味
南川:2階は何年も使われず倉庫と化していたので片付けと掃除から始めました。掃除を通して窓が独特、昔の釘が使われているなど建物の魅力を再発見し、愛着も深まっていきました。最初は参加者も5人程度でしたが、頑張っていることを知って助けてくれたり、地域の人も手伝ってくれるようになって、今では参加者が10人以上に増えてチームワークも強まりましたね。掃除だけのつもりが巻き込まれてメンバーになったり、こちらが課題を相談したのがきっかけで仲間になったり……。
初めは多様な人に建物を知ってもらうきっかけ作りのイベントをしたいと考えていましたが、次第に建築関係、手芸、料理など、メンバーそれぞれの特技や興味を活かして、ここでこんなイベントがやりたいという思いが膨らんで、話し合って形にしていきました。
知り合いを集めたキャンドルづくりのイベントを手始めに、建物の見学会、建物から出てきた懐かしい品々の展示会、出張カフェを呼ぶなど1つずつイベントを「こつこつ」地道に実行していったという。すると子ども、大学生、建築に興味がある人、江田島を好きな人、地元のお年寄りなどイベントのたびに江田島内外の新たな人との出会いが生まれ、その出会いが新たなイベントを呼び込むという形で活動の幅が広がっていった。昨年は建物をマスキングテープで彩った、建物ならではのイベントも行っている。
マスキングテープなど、粘着テープなどの製造を行うカモ井加工紙と海友舎がコラボしたイベント「mt ex 江田島展」
交流の輪が広がったのは、イベントの内容もさることながら建物が持つ存在感も大きいという。
南川:近所のあるおじいさんは、かつてこの庭で「海軍祭」が行われていたことを教えてくれて、イベントにもよく参加してくれるようになりました。そのおじいさんが亡くなると、お孫さんが会いに来てくれて。建物が残っていることで、人とのつながりが生まれ、世代が違う人ともリアリティをもって話をすることができると実感しましたね。
そこに存在した歴史や時間を雄弁に物語る「建物」が、地域、世代を超えて人々を結びつけたのである。
一方で、地元の人に受け入れられたのは、住民の思いを大切にしたいと地道な努力を積み重ねたことが大きい。プロジェクトの始動前に地域の自治会や老人会に挨拶に出向き、その思いに耳を傾け、その上で説明して理解を得ていった。また建物を知らない地元住民が多かったため、あらかじめ自治会の回覧板で案内して地元向けの見学会を開いてアピールした。こうした努力が信頼を得て、住民たちがプロジェクトに協力し、イベントにも参加してくれるようになったのである。
さらに、地域とのつながりの中で「昔、この洋裁教室に来ていた」という人に出会って話を聞いたり、海友舎から出てきた資料や昔の教科書などの品々についてゆかりの人にインタビューして回ったりと、この場所のさらなる魅力を発掘、発信もしていった。
こうした積み重ねにより、海友舎は地域の人々にも地元の宝として受け入れられていったのである。
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