海友舎を使いながら残そう! 保全・活用しながら地域の交流拠点として再生、観光資源としての魅力を創出する「ぐるぐる海友舎プロジェクト」

海友舎を使いながら残そう! 保全・活用しながら地域の交流拠点として再生、観光資源としての魅力を創出する「ぐるぐる海友舎プロジェクト」
110 年前に建てられた海友舎。戦中の空襲から免れた歴史的に貴重な木造洋館

長年育まれた交流の場だから残したい

海友舎を使いながら残そう!
正面の玄関ドアのガラスには、海軍であることを示す桜と錨がデザインされている

 広島県南西部の広島湾に浮かぶ島、江田島市。戦前から海軍兵学校が置かれた町として知られ、旧兵学校は今は海上自衛隊第一術学校として使われている。

 その第一術科学校の近くにある路地を上っていくと、2階建ての真っ白な木造建築の洋館が現れる。レンガ造りの基礎、上げ下げ窓、2階のバルコニーが印象的な洋館だが、室内は畳敷きの部屋もある和洋折衷の趣のある建物だ。この建物は明治末期に海軍兵学校が江田島に移転した際、下士官や兵士の娯楽兼福利施設として作られた「旧江田島海軍下士卒集会所」である。海軍の兵士がビリヤードや将棋、読書などに興じ、休日には宿泊することもできたという。正面玄関の扉には海軍の象徴である桜と碇のマークが入り、室内には昔ながらのかまど、木製の2段ベッドも残されており、当時の様子をうかがい知ることができる。

 戦後は健康器具の販売会社が建物を買い取り、会社の事務所や倉庫として使われ、終戦直後の一時期には戦争未亡人の洋裁教室の場になっていたこともあった。しかし2012年に会社が撤退し、空き家となり解体の噂も流れるようになった。

 その建物を残したいと発足したのが「ぐるぐる海友舎プロジェクト」だ。

 きっかけは代表の南川さんが、神戸の大学の環境建築デザイン学科を卒業し、父の実家がある江田島を訪れた際、この建物を見て感銘を受けたことに始まる。実は南川さんはそれまで原形のまま保存されている古い建物をいくつも見てきたが、あまり魅かれなかったという。だが、この建物は違っていた。

南川:建物が110年という歳月を超えて残っていることも素晴らしいことですが、何よりも長い間さまざまな形で使われながら残っていることに感動しました。建物のみならずそこに関わる人がいて、人々のコミュニティを育んで積み重ねてきた姿に魅かれました。これは一度壊されると再建できないので、何とか残せないかと強く思いました。

 しかも全国にいくつもあった海軍下士卒集会所は、そのほとんどが戦後になると取り壊されていた。文化、歴史的な観点からいっても貴重な建物といえる。ただし地元の人には当たり前すぎてこの建物が壊される危機感があまりなかったようだ。

南川:取り壊すという噂を聞いて、貴重な建物なので残すことが難しいのであれば実測調査をして記録に残し、お別れパーティでもできないかと思い、オーナーを訪ねました。するとオーナーも建物に愛着があり残したいという思いを持ちながら、維持管理に困っていることを知りました。そこで建物を多くの人に知ってもらうためのイベントを実施させてくださいとお願いしたのが始まりです。

 南川さんは知り合いの建築の専門家や江田島の人に声をかけて相談していくうちに、使いながら残したいという思いがさらに強くなっていった。江田島でフリーマガジン「Bridge」を発行している岡本さん夫妻も声をかけられた一人だった。

岡本:江田島に住んでいても、珍しい建物があるなと思うくらいでよく知りませんでした。自分たちで手入れをして使いながら残すと聞いてすごいなと思い、共感しました。

 こうして思いを同じくする大学の教員やデザイナー、建築デザイナーなど江田島内外の5人程度の有志で2012年10月に、市民ボランティア組織「ぐるぐる海友舎プロジェクト」を発足した。

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