「食」と「ものづくり」が地域の個性を高める

江澤香織フード・クラフト・トラベルライター

江澤香織 フード・クラフト・トラベルライター
地元食材を使った美味しいご馳走が有田焼の名品に盛り付けられる

器やクラフト好きが旅へのきっかけをつくる

 器やクラフトが好きなこともあり、普段から旅に出ると現地の窯元や工房を訪ねたり、民芸店等をのぞいたりしています。日本はものづくりの盛んな国で、個性豊かなさまざまな作り手がいて、それらを普通に人々が日常に取り入れて楽しむことができる、とても恵まれた国だと思います。

山陰への旅で知った、地域に潜む魅力

 最初にクラフトの魅力にハッとしたのは、山陰地方を旅した時でした。この地域は民藝運動の影響を受けた窯元が多く、他にはない独特の雰囲気を持っています。いわゆる六古窯と呼ばれる、古くから続く日本を代表するような窯元からは外れますが、江戸時代からの窯元も存在します。山陰には民藝運動の中でもイギリス人陶芸家・バーナード・リーチがしばしば訪ねているせいか、作るものに田舎の無垢な大らかさとモダンで西洋的な空気が同居していて、現代でも日常使いがしやすく、なんとも愛おしさの込み上げてくるものが多いことを感じました。また現地で実際に作り手に会って話を聞き、工房の様子を見学させてもらうと、一層興味が湧き、愛着が深まりました。作り手の考えに触れることは、ものに対する魅力を高めてくれます。ものを買うというより、その土地の空気や作り手の人柄を自分の側に引き寄せる感覚でした。現地では、若いカフェ店主や料理人が、地元の器を使ってセンス良く盛り付けている様子も時々見受けられ、さりげない日常の中で使われている様子が好ましく感じました。料理と器のそれぞれがお互いに魅力を引き出し合い、地元愛も感じられます。
 
 鳥取県では、2012年にクラフトを身近に感じてもらえるように、飲食店やギャラリーと窯元がコラボした「とっとり今食×うつわ」というイベントが開催されました。GWを挟んで1か月というやや長い期間開催されていたため、県外からの旅行客も多かったそうです。民藝と町歩きをテーマに、県内14軒の窯元の作品を鳥取市内の各参加店舗で実際に使って体感したり、購入したりすることができました。各店舗オーナーや料理人が県内の窯元を直接全部回ってものづくりの現場を見学し、自分達が使いたいものを選んで購入したり、作って欲しいものオーダーしたりしたそうです。器によって各店舗ごとに違った個性が表現され、旅行者にとっても町歩きを楽しみながら、色々な窯元の器使いを拝見できるよい機会となりました。イベント終了後も、そのまま使われている店舗もあり、町の日常として静かに定着しているようです。
 
 また最近注目しているのは、島根県出雲市にある出西窯が、2018年春に鳥取県のパン屋さんとコラボレーションしたベーカリーカフェを誕生させること。出西生姜など地元食材を使ったパンが登場するそうで、器とのコーディネートも気になるところです。出西窯はシンプルなフォルムで器初心者にも使いやすく、クラフトへ興味を持つ最初のきっかけとなりそうな窯元です。
 
山陰旅行 クラフト+食めぐり
 
山陰旅行 クラフト+食めぐり
東京で行われた『増補改訂 新版 山陰旅行 クラフト+食めぐり』(マイナビ) 刊行記念トークイベントの様子。山陰好きが集まり、交流した。山陰地方のお酒や食材が地域の器で提供され、器や食材の販売も行われた。

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