地域との連携で見えてくること ~学生の現地学習を通して~
今後の展開
旅行代理店に提出した上山まちあるきマップ
ありがたいことに、2014年度の報告会でお声がけいただいたホテル支配人様から、2015年度の報告会で公表した観光プランに関しても商品化のご提案をいただくことができました。前年度同様、今回のご提案も学生の企画を同ホテルのオプショナル・ツアーの一つに位置づけていただきましたが、販売はインバウンドに強い大手旅行代理店のインターネット・サイトで行うというものでした。大手旅行代理店のインターネット販売に乗せることで、学生の観光プランもやっと売り上げを出すことができました。また、専門の翻訳スタッフによって14カ国の言語に対応できるように加工され、語学的な壁はクリアできる目処が立ちました。
現地学習の前提は学生の教育ですが、学生の企画が商品化されれば、地域に経済的なフィードバックを期待できます。また、2015年度の現地報告会で見られたような議論を生むことができるのであれば、教員と学生が現地に入る現地学習は地域の課題解決に向けた有効な取り組みの一つに挙げることができると思います。とりわけインバウンド観光については、観光資源のみに着目するだけでは、外国人を誘客し満足させることはできず、住民の日常や活動にも目を向けていくことが必要です。その意味で2015年度の活動は、僕にとっても学生にとっても地誌学的な知見を得る勉強の場となりました。
東北地方には外国人を受け入れられる空港が少なく、インバウンド観光客が増加しにくい状況があります。地理的なデメリットを克服するうえで、東北地方のブランディングを促進し、誘客力を強化することは必須です。そのためには、複数の観光地を有機的に結びつける観光圏の概念に基づき、観光の広域化に取り組まなければならないと考えています。これが2016年度の活動のテーマでした。現在、本年度の成果をまとめている最中ですが、広域なだけに企画の段階で年度が終わりそうです。製作段階ですが、上山市の上山温泉と尾花沢市の銀山温泉を結びつけるために学生はPR動画を作成しました。こうした成果品をどう結びつけていくのか、現地の意見を取り入れながら、学生と一緒に考えていこうと思います。
学生が制作した銀山温泉のPR動画(製作段階)
理論や原理を知っている研究者としての大学教員が、行政の委員会に文字通り有識者として参加するということが20年前の大学の地域連携であったとすれば、現在の大学の地域連携は、そういった知識を持った教員が学生と共に現地へ赴き、住民レベルの活動を継続することによって、地域活性化のカンフル剤になることだと考えています。もちろん、現在も大学教員は有識者として呼ばれますし、僕自身いくつかの委員会に参加させていただいていますが、そこでの議論をそのまま住民に被せるようなことはめったにありません。あるとすれば、そこに全国を網羅的にあつかっている大手シンクタンクが入り込んで、シナリオ通りに事を進めようとしている場合や、彼らが招いた大先生が出席している時くらいでしょう(笑)。
■著者プロフィール
東北大学大学院理学研究科単位取得退学、博士(理学)、山形大学人文学部准教授を経て現職。山形大学GIS利活用研究所所長。山形大学人文学部やまがた地域社会研究所副所長。山形大学歴史・地理・人類学研究会代表。研究テーマは「市街地価格形成論」であるが、近年は都市再生による土地評価の変動に関する視点から、まちづくり、観光、防災などをテーマに行政、大学教育に関わる。
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