我が国のMICEの現状と課題

松尾徳朗公立大学法人首都大学東京産業技術大学院大学教授

2014.03.16

MICEの現状

 コンベンションと展示会の誘致競争が世界的に繰り広げられている。MICEは、国ベースでの取り組みと地域ベースの取り組み、および民間や個人ベースの取り組みに大別される。
 またMICEは、経済波及効果の向上だけではなく、社会的波及効果と文化的波及効果についても大きな向上をもたらす。今後、2020東京オリンピックに向け外国人を受け入れる機運が高まっても、それを一過性のものにするか、それとも継続的なものにするかはMICEに関わる自治体や事業者にかかっている。

 MICEは他の産業と大きく異なり、イベントを実施するための知識と人的資源が必要な上に、それを成功させるための各種インフラと環境が必要である。しばしば、MICEを充実させるためには、カジノの立地に関して議論されることがあるが、これらを必ずしも連動させる必要はない。むしろ、世界的にはカジノがなくともMICEに成功している地域や施設のほうが多く、そのような事例を研究してうまく活用すべきである。

 国内のMICE需要を促進させることも重要であるが、観光や経済波及の面では、海外からのMICEの誘致とそれによる訪日外国人旅行者数の増加が極めて重要である。現状において、我が国の会議施設、ホテル、ソーシャルファンクション施設などのほとんどが、他国からMICEを誘致しにくい仕組みになっている。

 例えば、米国のホテルでは、まとまった宿泊がある場合、会議場とコーヒーブレイクやレセプションの大幅なディスカウントが提案され、契約にいたる。しかし、我が国において、このようにインセンティブを設計し、ビジネスを実践している事業者は極めて少ない。また、施設などでクレジットカードによる支払いができないところも非常に多い。

 そのため、海外の主催者はコンベンションや展示会に関して、日本での開催を候補として挙げにくくなり、我が国のMICE関連事業者は、潜在的なビジネスロスを被っていることになる。

現状をどう乗り越えるか

 我が国のMICEの現状については、各種統計の通り、アジアのいくつかの国より出遅れている。そもそも天然資源などに乏しいため、MICEはさらに強化していかなければならない分野である。

 我が国は、科学技術や医療の面において、世界をリードするレベルであるが、国際会議の開催件数はそのレベルにしては決して多いとは言えない。コンベンションや展示会に関して国家的な戦略として仕掛けていく必要があるといえる。

 一方、民間の事業者やコンベンションビューローなど実務レベルにおいても、MICEに関して知識を高めていき、よりよいMICEの環境を作り上げていく必要がある。

 本稿の最後に、地域観光とMICEを連動させて発展させていくためのキーワードについて説明する。

 観光において成功を目指すには、お客様を「驚かせる(非日常の体験)」「楽しませる(ストレス解消)」「休ませる(充実した余暇)」の基本原則の実現を目指す。
 その上で、MICEを充実させるには、MICEでのお客様を「慣れさせる(MICEに専念できるよう快適さの提供)」「集わせる(望ましい交流の場の実現)」「感動させる(会議参加者との気持ちの共有)」場の実現を目指す。

 それを基盤として、各々の施設やホテルは強みやチャンスを生かしたMICEと観光への取り組みを充実させ、その結果、地域総体としてMICEに強い地域が形成されていく。

著者プロフィール

松尾徳朗

松尾徳朗公立大学法人首都大学東京産業技術大学院大学教授

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