日本を覆う女子旅旋風 持続可能な女子旅目的地とは
持続可能な女子旅目的地となるために② 地域で優先すべきことは
ただ、最後に警鐘も鳴らさせていただきたいと思います。
たとえば、女子の対になるのは男子ですが、私が昨年、出雲市を訪れた際も実際に街コンのようなものの告知がなされていました。出雲市は確かに縁結びを打ち出してはいますが、そこで偶然出会ったそれぞれ複数人からなる男女のグループから果たしてうまく恋愛までこぎ着けるカップルが誕生するのか…甚だ疑問です。まぁ、数撃てば時には当たるのかもしれませんが。
男女の縁が結び付きやすいのは映画などを見てもわかるように、1対1の場合ではないかと思います。とすれば、女子旅のメインターゲットである複数人の中間層からなるグループではなく、1人旅でも来るもう少し上の層を狙うべきなのではないでしょうか。「2人の記念の地」という観点一つ取っても観光戦略というのは非常に重要だと思います。
出雲市のようなすでに確立された女子旅目的地はともかく、女子旅ブームに安易に乗っていろいろ手を出してみるのではなく、何が地域や観光者にとって本当に大切なことなのか、落ち着いてまずよく考えた方がよさそうです。女子旅は有力ですが、数ある観光者のタイプ(セグメント)の一つに過ぎません。
海外に目を転ずれば、ラオスにルアン・パバーンという小さな町がありますが、ここは、元々はバックパッカーによって開発された町でした。今ではバックパッカーだけでなく、女子旅の目的地にもなっています。一方、ドイツではローテンブルクというロマンティック街道の小さな町が女子旅に人気ですが、ドイツ研究者として申し上げれば、このような町は実はドイツでは特に珍しくもなく、たとえばハルツ地方にはいくらでも(世界遺産も含む良質な)代替地があります。現状はひとえにローテンブルクやノイシュヴァンシュタイン城などを含むロマンティック街道の観光戦略が良かったと言うしかありません。しかし、このように大衆化してしまうと、ドイツをそれなりにでも知る者の足はますます遠ざかることになります。
ローテンブルク(ドイツ)
女子旅をターゲットとして考えるにしても、地域の持続可能な観光のために優先して取り組まなければならないことは何か、ということをまずはご検討いただければと思います。「急がば回れ」ということで。
■著者プロフィール
福岡県筑紫郡那珂川町出身。立命館大学文学部、広島大学大学院総合科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。観光研究を通し、人の生き方を考えることを一貫した目標としている。現在、自身が研究代表者を務める科研費採択課題「女性と観光に関する総合的研究」(2015年4月~2018年3月)の一環で女子旅研究に注力している。
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