旅行先へのリピーターの心理

大方優子九州産業大学商学部観光産業学科准教授

2012.08.16

 近年、多くの地域がリピーターの獲得を観光政策の目標に掲げている。かねてより企業のマーケティング活動において有効性が指摘されている「リレーションシップ・マーケティング」の概念が、観光地づくりの場面に持ち込まれたといえよう。

 一般に、リピート購買を促すには消費者に「満足感」を与えることが重要であるといわれている。しかし、旅行先の場合、たとえ満足感を抱いたとしても、再びその旅行先には訪れない人がおり、むしろ、満足した旅行先には再び訪問する必要性を感じないというケースが多く確認されている。

 では、いったいどのような心理が旅行者を再び同じ旅行先へと向かわせるのであろうか。これまで筆者は、このようなリピーターの心理的側面に着目し研究を行ってきたが、それによると、旅行者がその地域を十分経験したという達成感を抱いた場合、基本的にその地域への訪問は終了することがわかった。

 しかし、その地域に強い「愛着」を持った場合は、その地域のファンのような存在となり繰り返し訪れることがある。また、とくにその旅行先に愛着があるわけではないが、アクセスやコスト面などの条件がよければ、「習慣的」にその地域を訪れることもある。

 一方で、その地域に関して何らかの「心残り」を感じる場合も、そこを再び訪れることがある。たとえば、前回の訪問でやり残したことがある、あるいは、たまたま雨が降ったり体調が悪かったりして十分に楽しめなかったという場合にその心残りを晴らすため再びその旅行先を訪れるというケース。また、前回の訪問とは違うメンバーで、あるいは違う季節に行くなど、一度目の訪問とは何らかの変化が期待され新たな楽しみ方が出現したという理由により再び同じ場所を訪れるケースである。

 ただいずれの場合も、その地域に対する不満や、訪問にあたっての阻害要因が存在しないということが前提であり、このような要因が存在した場合は、いくら心残りがあったとしても、再訪問につながることはないのである。

 そのほかに、その旅行先で行う特定の活動を目的に、結果的にその旅行先に再度訪れるというケースもある。この場合、旅行者は地域自体に対する関心は薄く、その特定の活動と地域との関係がなくなれば、その地域への訪問も終了する。

 このように、リピーターといっても、心理的側面から考察すればその実態は様々である。旅行先というものは、一般的な商品やサービスとは異なる側面を有しており、旅行者のリピート訪問を促すためには、旅行者の心理や行動の特徴を理解し、それらを踏まえてマーケティング手法を検討する必要があるだろう。

著者プロフィール

大方優子

大方優子九州産業大学商学部観光産業学科准教授

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