ワインツーリズムの発展とその地域的差異
ワインツーリズムの原点と伝統性
【写真1】フランス・ブルゴーニュ地方のディジョン周辺におけるワイン生産の村(2004年8月撮影) 村にはワインを生産する農家や農家民宿、農家レストランなどが立地し、その周りにはブドウ畑が広がって、ワインツーリズムの地域がつくりだされている
フランスのブルゴーニュ地方のワイン産地はソーヌ川に沿って右岸の波浪状の低丘陵地に細長く展開し、シャブリやコート・ド・ニュイ、コート・ド・ボーヌ、コート・ド・シャロネーズ、マコネ、ボージョレなどが主要な産地となっている。
ブルゴーニュ地方はワインツーリズムのはじまりの地の1つとして知られており、その基盤はAOC(原産地呼称)制度の格付けである。格付けは地域(ブルゴーニュ)、地区(ボジョレなど)、村、圃場の空間的な序列で行われ、「村」や「圃場」などの格付け範囲の狭いワインの多くはその場所でしか手に入れることのできないものになっている。フランス人はそのようなワインを手に入れるため、ワイン産地の村や農家を訪れることになる【写真1】。
ブルゴーニュ地方の多くの村では、その領域内には「地域」格付け用のブドウ畑と「村」格付けのブドウ畑、および「圃場」格付けのブドウ畑が広がり、格付けの異なるAOCワインが生産されている。
ブルゴーニュ地方では、村の教会を中心に民家が集まって立地する農村景観と、その周りの波浪状の丘陵地に展開するブドウの耕作景観、およびワインを醸造する農家がワインツーリズムの主要な要素となる。
農家の多くは格付けの異なるブドウ畑を所有し、それらから格付けの異なるワインを醸造している。「地域」の格付けワインは市場に出荷するが、「村」や「圃場」の格付けワインの多くは農家醸造所に併設された直売所で販売される。
ワインを買い求めようとする人びとは、いくつかの地区の複数の農家醸造所を訪ね、お気に入りのワインを探し当ててダース単位で購入する。そのようなフランス人の行動がワインツーリズムの原型となる。
ワインツーリズムによる地域変化
お気に入りのワインを求めて多くの観光客がブルゴーニュのワイン産地を訪れるようになると、ワイン醸造農家も観光化に対応するようになる。
ブルゴーニュの家屋の多くは多層単棟型で、地下がワイン貯蔵庫、1階がワイン醸造所、2階が居住空間、3階がブドウ収穫時の季節労働者の居住空間として利用されていた。
しかし、ワインツーリズムの発展によって、1階のワイン醸造所に併設して試飲と直売のコーナーが増築され、地下の貯蔵庫は本物志向を強調してワインカーヴとして観光客に開放された。
また、2階や3階の居住空間も改築され、宿泊や農家レストランの空間として利用されるようになった。農家レストランでは地域のスローフードである牛肉の赤ワイン煮などが郷土料理として観光客に提供された。
ブルゴーニュでは、ワインツーリズムがさらに発達すると、農家民宿を営む農家のなかで宿泊業に専門化するものや、農家レストランが洗練され、専門化・高級化するものも現れるようになった。特に、ブルゴーニュは良質のワインと食材(肉や野菜、チーズなど)の宝庫であるため、有名レストランも多く立地するようになった。
つまり、ブルゴーニュのワインツーリズムは、地域の風土や環境に根ざしたAOCワインと、そのワインを生産する農村景観や耕作景観、およびワイン醸造所の見学やワインの試飲などの体験、そしてワインとともに味わうスローフードやグルメ(美食)などの地域資源を有機的に組み合わせて発展してきたといえる。
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