ムスリムツーリズムによる観光振興の現状と課題

富沢寿勇静岡県立大学国際関係学部教授/グローバル地域センター副センター長

2014.05.01

増加するイスラームからの旅行客

 最近わが国でもイスラーム圏からの旅行客の受容体制整備の必要性が認識されるようになった。そこでムスリムツーリズムを通じた観光振興の状況と問題を整理しておきたい。

 まず、ムスリムツーリズムの類似用語としてハラールツーリズム、シャリア(イスラーム法)ツーリズム、イスラミックツーリズムなどがある。
 ハラールとはイスラームにおいて「神が許した」「(イスラーム法で)合法的」という意味であるから、ハラールツーリズムはシャリアツーリズムとほぼ同義であり、ムスリムツーリズムと同様、ムスリム旅行者を想定し、イスラーム(法)に適(かな)った旅に力点がある。

 マッカ(メッカ)巡礼も当然その中に含むが、一般にムスリムにとっての旅とは、世界における神のさまざまな創造物を見聞し鑑賞する機会として意義づけられる。

 一方、イスラミックツーリズムは、このイスラームの価値観を背景に、イスラームの歴史・文化遺産に関わる観光も含まれ、対象となる旅客層はムスリム、非ムスリム双方を想定していて、観光戦略としての裾野は一層広い。

 日本では最近マレーシアやインドネシアなどからのムスリム来訪者の急増が注目され、ムスリムツーリズム・セミナーが開催されたり、ムスリムのための日本案内英語版が刊行されたり、国際空港やアウトレットモールなどにムスリム対応の飲食店や礼拝室が開設され、ホテルで客室にキブラ(礼拝するマッカの方角)マークや礼拝マットなどを配備したりする試みも見られるようになった。

 この一連の動向は、ムスリムの来訪を準備・歓迎する意思表示として高く評価したい。他方、以下のように検討すべき課題もいくつかある。

ハラール認証の正しい理解がポイントに

 第一に、レストランやホテル・宿泊施設などにおける「ハラール」の用語法の問題である。

 今日のハラールビジネス関係者の間では、その主催するセミナー、研修や出版物、認証実務などにおいて、ハラールの普遍基準を前提としたような誤解を招く言説が横行しているが、実はまだそのようなグローバル統一基準は存在しない。

 日本での各種ハラール認証の大半がマレーシアやインドネシアのハラール基準をモデルとしており、これらは確かに国際的にも広く認知され信頼されているため、参考にする価値は十分あるが、これを普遍基準であるかのごとく絶対視してしまう陥穽(かんせい)は避けるべきである。

 第二に、ホテル内レストランのハラール認証をホテル全体の認証と混同すべきではない。

 ホテルのハラール認証は、それほど簡単なものではない。たとえば国際観光ホテルをイスラーム基準で格付けする試みは、つい最近マレーシアやトルコなどで始まったばかりで、まだ試行段階であり、しかもそれはハラール認証というかたちをとっていない。

 第三に、本邦におけるムスリムツーリズムの可能性を開拓する上で、在日ムスリムたちが従来築いてきた歴史や文化にまつわるものを新たな観光資源として発掘してみるのも面白い。

 第四に、しかしムスリムだからといってイスラーム関連の訪問地に過度に限定する必要もない。日本を訪れるムスリムの中には、美味の和食を味わい日本の自然景観、史跡や文化も楽しみたいという者も少なくない。

 観光庁によるムスリムへの日本案内で紹介されている国内52軒の「ムスリムフレンドリー・レストラン」の中で和食料理店は1軒のみだが、ムスリム対応の和食店や郷土料理店が日本の観光地各所にあれば理想的だし、さらに地域性豊かな日本文化も体験できる機会があれば、一層多くのムスリム旅行者の興味を引くことになると期待できる。

著者プロフィール

富沢寿勇

富沢寿勇静岡県立大学国際関係学部教授/グローバル地域センター副センター長

スポンサードリンク