地域文化に根ざしたツアーデザインのつくり方

井口智裕(株)いせん代表取締役、(一社)雪国観光圏代表理事

マーケティングで新たなターゲットを設定

 翌年には、この地域独自の価値を活かすためのマーケティングを行った。

 マーケティングの基本はターゲットを設定し、そのターゲットの嗜好にあうように商品開発を進めていくことである。しかしながら観光地域そのものが商品となっている場合、家電製品や衣服と異なり、顧客ニーズにあわせて、その形状や仕様などを変更することができない。観光地域づくりにおけるマーケティング活動とは、地域の本質的な価値を見定め、その価値に対してもっとも高く反応する顧客はだれかを決めることから始まる。

 雪国観光圏では、地域のブランド価値に対して最も親和性が高い顧客として「都内在住の40代のキャリア女性」を設定した。一部の人からは「年間1000万人を越すスキー客がいるのになぜターゲットにしないのか?」という意見もあった。しかしながら既存のスキーマーケットはすでに地元観光協会やそれぞれの事業所で対策が十分に検討されており、限られた予算しかない雪国観光圏がさらにそのマーケットに対してアプローチするには効率が悪いと考えた。


雪国観光圏グループインタビューでマーケティング

 さらに我々にとって重要なことは、顧客がもたらす地域への影響である。昭和から平成にかけて、スキー客の入込みは地域に多大な経済効果をもたらした。しかし同時に無秩序な開発によって地域がもつ本来の価値を失ってきたことも事実である。

 「100年後も雪国であるために」という理念を掲げる雪国観光圏では、常に変化する顧客ニーズに応じて地域の在り方を変えるのではなく、地域がもつ本来の価値を高めていくために、どのような顧客を集めるべきなのかを考えている。

 これから地域づくりを進めていくためには、将来にむけて顧客のあるべき姿を常に意識していかなければならない。

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