小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ12.ガイドの役割と意義 ~インタープリターになろう~

菊間彰一般社団法人をかしや代表理事

インタープリターは、お客さんが「今まで知らなかった世界」を体験できるように導く

 インタープリターの役割、その2。「今まで知らなかった世界」を体験できるように導き、新たな世界の扉を開きます。先ほどから言っているとおり、ガイドツアーに参加されるお客さんは対象に興味があるとは限りません。インタープリターは、それを前提にツアーを進めます。知ってること、興味があることが前提なのではなく「知らないこと、興味がないこと」を前提に進めるのです。知らないこと、興味がないことを前提にすれば「丁寧に伝えよう」「どうやって魅力をわかってもらおう」という気持ちが生まれ、いろんな工夫を凝らすようになります。ここが重要なのです。

 例えば、自然体験のツアーを実施したとします。比較的自然が好きな人でも、虫が嫌いな方は多いもの。特に「毛虫・芋虫」が嫌いだという方は多いです。それを好きになってもらおうとしたら、みなさんはどうしますか?

 私がよくやるのは、木から落ちて糸でぶら下がっている芋虫を見てもらう、という体験です。皆さんは見たことがありますか? じっくり観察するとわかるのですが、木から落ちた彼らは糸でかろうじてぶら下がっており、しかも少しずつ上昇していきます。もっと近づいてよく見ると、彼らは胸の前で短い手足を動かし、糸を丸めて少しづつ登っているのです。だから胸の前には「糸玉」ができています。小さい体で実に健気(けなげ)です。実際にこのシーンを目撃すると、経験上子どもであればだいたい虫のことが好きになります。大人の場合は「生理的に受けつけない」場合もありますので注意が必要ですが……。

 また、歴史系のツアーではこんなことがありました。広島県の三原城のガイドツアーの冒頭で、かつてこの地を治めていた「小早川隆景(こばやかわたかかげ)公」の紹介をするシーンがありました。隆景公の銅像前からツアーを始めるのですが、ほとんどの方は小早川隆景公を知りません。そこで、「三本の矢」の体験をすることにしました。かつて広島の地を治めていた戦国武将の毛利元就が、3人の子に授けたという教えです。一本の矢は容易に折れるが、三本まとめてでは折れにくいことから、一族の結束を説いたという有名な「三矢の教え」です。

 実は小早川隆景公は、毛利元就の三男なのです。隆景公は知らなくても、毛利元就の「三矢の教え」は歴史の授業で習うので、大抵の人は知っているはず。そこでこれを体験化し、実際に矢を折ってみることにしました。すると効果テキメン! みなさん

「ああ、小早川さんはあの毛利元就の三男なのね!」

と腑に落ちたようで、すんなりとツアーに入ることができました。

小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ12.ガイドの役割と意義 ~インタープリターになろう~
JR三原駅前の小早川隆景公銅像

小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ12.ガイドの役割と意義 ~インタープリターになろう~
「三矢の教え」を実際に体験。3本集まればちょっとやそっとじゃ折れません(広島県三原市)

 このように、人は、その物事が「自分ごと」になった瞬間にその世界を好きになります。だからインタープリターはあの手この手で、その対象に興味を持ってもらおうと頭をひねるのです。……と、こう考えると、これは恋愛と一緒ですね。自分に全く興味のない相手に対して、自分に関することをいくら喋ったところで聞いてくれるはずもありません。楽しい体験、例えば映画や遊園地や美味しいディナーなどを通じて、自分に興味を持ってもらうのと一緒です。

 結果として、インタープリターがいることによって、お客さんはまちなみや歴史や自然などの「新しい世界」に触れることになります。つまりインタープリターはそのようにして「新たな世界の扉を開く」のです。

1 2 3

スポンサードリンク