小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ8 ~小道具の活用 おさえておきたい3つのポイントとは~

菊間彰一般社団法人をかしや代表理事

2019.01.31山口県愛媛県

「モデル」をうまく活用しよう

小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ8 ~小道具の活用 おさえておきたい3つのポイントとは~
産業遺産「千野々橋(ちののばし)」。大小の三角が連なった「トラス構造」の赤い橋

 2つ目のポイント、それは「モデル」をうまく活用することです。モデルとは模型や模式図のことで、人やモノや構造を、2次元3次元的に表したものです。

 ガイドの大事なコツの一つとして、ただ表面的な事象そのものを話すのではなく、その背景にある「構造」や、モノとコトの「つながり」を伝える、というのがあります。例えば自然ガイドであれば単に植物や昆虫の名前や特徴を話すだけでなく「食う、食われる」という自然界の食物連鎖や、人がイナゴや川虫を食してきた「昆虫食」という文化について伝えるのです。こういった「つながり」や「構造」はなかなか言葉だけで伝えるのはむずかしいもの。そういう時に役立つのが「モデル」です。

 例えばこんなことがありました。愛媛県西条市で産業遺産についてガイドをしていたときのことです。西条市には「千野々橋(ちののばし)」という歴史ある赤い橋があります。千野々橋は大正14年に完成し、愛媛県内にある現役の橋では最古の曲弦トラス橋で「赤橋(あかばし)」と呼ばれています。

 この橋の魅力を伝えるために私は、まず「△(さんかく)をさがせ!」というアクティビティ(体験を通じて魅力を伝える遊び)を実施しました。この橋の最大の特徴は三角形を連ねた「トラス構造」にあり、三角形を連ねることで、少ない部材で強度を高めているのです。はるか昔の大正時代に作られた、まさに人間の知恵と技術の結晶です。しかし、ただ橋を見たり通ったりするだけでは「へー、赤くてキレイだね」と思うだけで、そういった背景に気づくことはできません。

 5〜6人のグループごとに三角の数を数えてもらったのですが、数え方によりバラツキがあり、みなさんが見つけ出した三角の数は「600~1,100」の間でした。驚くべき数がこの橋に隠されていました。なぜこんなに数が多いのでしょうか? それは、四角形と違って三角形は構造的に安定しているから。昔の人はそれがわかっていたから、四角の部分に部材を一本足して全て三角形としたのです。だから、軽くて強い橋ができたのです。これぞ素晴らしき人間の叡智!

 ・・・と、このように理屈で説明したところで「へー」で終わってしまいます。そんなものです。理屈では「腑に落ちない」のです。そこでモデルの登場です。私は上記のような説明をした後、四角形と三角形を割り箸で作った「トラスモデル」を出しました。そしてみなさんに実際に触って比べてもらいました。すると一目瞭然。四角形は少し押すとグニャグニャと簡単に動くのに対し、三角形は押してもビクともしません。三角形の構造的な強さを体験的に理解することができました。

 これが「モデル」の効果です。難しい話は100の言葉を尽くすより、実物を見て触った方がはるかに伝わるのです。わかりやすく伝えようと思ったら、実物を見せ、それでも難しいようであればモデルを活用しましょう。お客さんに簡単に伝わり「腑に落ちる」体験にすることができます。

小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ ステップ8 ~小道具の活用 おさえておきたい3つのポイントとは~
割り箸で作った「トラスモデル」。触り比べることで三角形の強さを一瞬で理解できます

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