連載 小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ  ~ステップ1

菊間彰一般社団法人をかしや代表理事

2018.06.26

小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ  ~ステップ1
雰囲気の良いガイドを目指しましょう!

できるだけしゃべらず、「体験」を通じて伝えよう 

 では具体的にはどのようなガイドになれば良いのでしょうか? 何をどのように伝えていけば良いのでしょうか? それには二つの大事なポイントがあります。

1.できるだけしゃべらない 〜「盛る」のではなく「削ぐ」ことを考える〜

 ガイドというと、とにかくなんでも知っていて、聞けば全て答えてくれる人、というイメージがあるかもしれません。しかしほんとうは、全てを知らなくても優れたガイドになることはできるのです。もちろん知っているに越したことはありませんが、それよりもっと大事なことがあります。それは「できるだけしゃべらない」ということです。

 「しゃべる」という行為は、実はお客さんが自由に見たり、聞いたり、感じたりする時間を奪うことです。これはとても重要なことなので覚えておいてくださいガイドがしゃべっている間は、お客さんが主体ではなくガイドが主体になってしまいます。だからガイドがしゃべる内容は、お客さんの時間を奪ってでも伝えなければならないことに限るべきです。そしてそれほどまでに重要なことはさほど多くはないはずです。少なくとも人物の名前や年号や、植物や地質の名前などに、そこまで価値があるとは思えません。

 以上の理由から、ガイドが伝える内容は、徹底的に削ぎ落とす必要があります。そのまちやその場所、その時「ならでは」の、かつ本質的な内容のみに絞り込むべきです。とかくガイドは多くのことを伝えたがりますが、それは逆効果です。多すぎる情報は、決して伝わることはありません。「盛るのではなく、削ぐ」。これが、良いガイドになるための第一のポイントです。

2.「体験」を通じて伝える

 もう一点は、そうして絞り込んだ情報をただしゃべるのではなく「体験」を通じて伝える、ということです。参加者自身が見たり、聞いたり、触ったり、感じたりして、自らの体験を通じて理解する、そういうガイド手法を用いるのです。現段階では意味がよくわからないかもしれませんが、今はそれでかまいません。一般的にガイドさんは知識を重視しがちですが、積みあげた知識や情報がまったく通用しないパターンも存在します。例えばまちなみや自然や歴史にまったく興味のない人や、子どもグループや親子連れがお客さんの場合です。こういった場合は、知識ではなく誰もが楽しめる「楽しい体験」や「素敵な時間」を提供することが大切です。そしてまちなみや自然や歴史の魅力を、体験を通じて楽しく伝えるには、知識だけではない専門的な「伝え方」を身に付ける必要があります。これが第二のポイントです。

武蔵と小次郎 〜「知識」という名の大剣を振りかざすのではなく、「知識」と「伝え方」の二刀流でいこう

小さなまちのどこにでもある資源を魅力あるストーリーに変え、伝えるための12のコツ  ~ステップ1
佐々木小次郎(左)と宮本武蔵(右) ©下関市観光政策課

 最後に、これから私たちが目指すガイド像についての例え話をしましょう。私が研修でよく使う話に「武蔵と小次郎」があります。みなさんは、かつて巌流島で戦った二人の剣豪「宮本武蔵」と「佐々木小次郎」をご存知でしょうか? 宮本武蔵は「二天一流」という流派で二本の刀を使います。いわゆる二刀流です。それに対し佐々木小次郎は「巌流(がんりゅう)」という流派で、1mにも及ぶ長大な剣を使って戦ったといわれています(諸説あり)。

 これをガイドに置き換えてみましょう。従来の知識伝達型のガイドさんは「佐々木小次郎」です。積み上げた知識や情報という一本の大きな刀を使います。しかしこれでは、先に挙げたような状況に対応できません。どんなに積み上げ研ぎ上げた知識という名の「大剣」をもってしても、興味のない人や子ども達には通用しないのです。

 これに対して私たちが目指すのは「宮本武蔵」です。「知識」という刀に加え、体験を通じて伝える「伝え方」というもう一振りの刀を使い、どんな人にもその場所の魅力を伝えていきます。二刀流で戦うことでどんなお客さんが来ても満足してもらうことができるのです。この場合「知識」は相手のニーズと必要性に応じて小出しにする「引き出し」であり、知識を全面に出すことはありません。そのためガイドも「全てを知らなければいけない、伝えなければいけない」というプレッシャーから解放されることになります。

 ただし、体験を通じて伝える手法は、知識を積み重ねる今までのやり方の延長線上にはありません。これから学ぶことは、今まで振ったことのない新しい刀の振り方を覚えることにほかならないのです。それは多くの人にとって初めてのことで、時に難しく感じることもあるかもしれません。しかし、もしその刀を上手に振ることができるようになれば、興味のない人が来ても、子どもが来ても、親子連れのグループの中にカップルがいても恐れる必要はありません。どんな相手にも満足していただける、まさに「天下無双」のガイドになれることでしょう。

 そんなガイドを目指して、これから一年間一緒に学んでいきましょう。

著者プロフィール

菊間彰

菊間彰一般社団法人をかしや代表理事

1974年生まれ。「一般社団法人をかしや」代表理事。環境教育と自然ガイド(インタープリテーション)が専門。ロープワークやナイフワーク、火起こしなどアウトドアスキル全般も得意。20代はじめに猿岩石に影響されバックパッカーとして東南アジアを巡る。その後、富士山麓、沖繩、名古屋、新潟など全国で自然に関わる仕事をしたのち2008年より愛媛県今治市に移住「をかしや」を起業。自然体験のノウハウをベースとした、行政向け、企業向け、一般向け研修を多数実施。「まごころこめて、ほんものを提供する」がモットー。

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