2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた今後の取り組み

原田宗彦早稲田大学スポーツ科学学術院教授

2014.10.01東京都

五輪のために訪れたビジターを日本ファンに

  五輪期間中に外国人旅行者が一時的に減少するのは、メガスポーツイベントの開催にともなうホテルの高騰や都心部の混雑、そしてテロの心配などによって、本来ならば五輪開催都市を訪問するはずの旅行者が時期を変更するためである。

 このような訪日外国人旅行者を「タイムスイッチャー」と呼ぶ。

 ただしマーケティングの視点から見れば、2020年の大会期間中に東京を訪問する「イベントビジター」は、2020年大会がなければ東京や日本を訪問する機会がなかった新規の顧客セグメントと考えることができる。

 このセグメントの特徴は、オリンピックの観戦を目的とする比較的裕福で、教育水準が高く、情報発信力が高いという点であり、スポーツへの関心が高い優良顧客である。

 タイムスイッチャーは、五輪に関係なく東京を訪問する旅行者なので、一時的な落ち込みを心配する必要はない。それよりも大切なのが、五輪のために日本を訪問したイベントビジターを日本ファンにすることと、五輪開催で高まる知名度を梃に、日本の魅力を世界に訴求するための戦略である。

 英国の場合、ロンドン五輪開催翌年の2013年には、外国人旅行者客の数が対前年度比5.6%増の3,281万人を記録するなど、過去最高を記録したが、その背景には、大会前、期間中、大会後に行った“Britain-You are invited”(2011-2015年)と呼ばれる国を挙げてのプロモーション・キャンペーンがある。

日本のスポーツのイメージを増幅し、新しい顧客セグメントを発掘

 少しデータは古いが、2005年の英国観光局の調べでは、訪英外国人旅行者の約8%が、何らかのスポーツに参加したか、スポーツを観戦したか、もしくは両方を行ったスポーツツーリストであった。

 2012年五輪大会開催後の現在、スポーツへの関心の高まりとともに、この数字はさらに上昇している可能性がある。

 日本の場合、歴史的な観光資源や町並みは、京都や奈良といった特定の都市に固定化されている。しかしながら、スポーツの場合、たとえ人口減に悩む中山間地域でも、豊富なアウトドアスポーツの資源が眠っている可能性がある。外国人スキーヤーに人気が高いニセコのパウダースノーも、かつては一部の日本人スキーヤーしか知らない「隠れた観光資源」であった。

 今後、2020年の東京五輪開催を契機に、オールジャパンの観光振興に取り組むならば、スポーツをキーワードにした観光商品の造成にも力を注ぐべきである。

 日本ブランドの中に占めるスポーツのイメージを増幅することによって、新しい顧客セグメントの発掘を行うことは十分に可能である。その意味からも、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会が、日本のデスティネーションイメージを大きく変化させるきっかけになることを期待したい。

著者プロフィール

原田宗彦

原田宗彦早稲田大学スポーツ科学学術院教授

ペンシルバニア州立大学体育・レクリエーション学部博士課程修了後、フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)、大阪体育大学大学院教授などを経て、2005年(平成17年)から現職。一般社団日本スポーツツーリズム推進機構会長、日本スポーツマネジメント学会会長、Jリーグ理事も務める。

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