フードツーリズムの可能性

村上喜郁追手門学院大学経営学部経営学科准教授

2013.11.01

脚光をあびるフードツーリズム

 近年、にわかに「フードツーリズム」という言葉を耳にするようになった。少なくとも、官界・学界ではその傾向は強くなっている。フードツーリズムとは簡潔に言えば「食を目的とした旅」であり、もう少し専門的に言えば「食を観光動機とする観光行動であり、食文化を観光アトラクションとする観光事業」(尾家建生2011)である。今回は、この「フードツーリズムの可能性」について少し論じたい。

 私の考える「フードツーリズムの可能性」とは、(1)開発に大きな資本が必要ないこと、(2)他のツーリズムとの親和性が高いこと、(3)他の産業への広がりを持つことである。

 近頃、アベノミクスの効果として景気動向にも明るい兆しが見え始めている。しかしながら、末端までの景気回復には程遠く、特に多くの地方は疲弊したままである。地方自治体も観光によって都市等の地域外部に活力を求めたいが、そのための大規模な投資は厳しいのが現状である。

 このような環境の中、フードツーリズムによる観光開発は、箱もの作りなどの資金が必要なく、民間の活力、特に市民の力を生かした開発が可能である。「B級ご当地グルメ・イベント」や「まちなかバル」はその代表的な事例であろう。地域を愛するボランティアやまちの活性化を目指す人々の取り組みが、集客力のある地域イベントを創り出している。

多様な展開が可能に

 さらにフードツーリズムは、他のツーリズムとの親和性が極めて高い。「旅」と言えば、観光、ビジネス、修学などの目的が挙げられるが、その全てにおいて食行動を伴わないものはない。

 一般の観光はもちろん、地方出張等のビジネスマンが仕事明けでの地方の美味を期待するというのはイメージしやすいだろう。また、修学旅行においても、地域の歴史や文化と関わる食事は、学習の一つの成果となり得る。

 あらゆるタイプの旅に、フードツーリズムの要素を組み合わせることが可能であり、それにより地域での消費は活性化される。

 また、フードツーリズムは他の産業への広がりを持っている。フードツーリズムの開発は、直接的には宿泊業・飲食業に利益をもたらすが、料理の素材となれば農林水産業、お土産や産品であれば食品加工業、販売に関わるサービス業などにも恩恵が広がるであろう。仮に限定的であるにしろ、フードツーリズムは地域のさまざまな産業に波及効果を及ぼすのである。

 先にも述べたように日本の景気回復はその途上にあり、観光する側・受け入れ側の双方とも、多くの資金を観光に費やせる状況に至っていない。

 このような中で、大きな投資も無く、既存の観光資源も有効に活用し、関係するさまざまな人に恩恵をもたらす可能性のある観光モデルこそ、フードツーリズムなのである。

著者プロフィール

村上喜郁

村上喜郁追手門学院大学経営学部経営学科准教授

スポンサードリンク