「コミュニティ・ベースド・ツーリズム」としてのフットパスによる地域づくり

久保由加里大阪国際大学短期大学部准教授

2014.07.16

フットパスの発祥

 近年、「歩くこと」がいわゆるオルタナティブ・ツーリズムと結びつき、付加価値を生んでいる。「スポーツ・ツーリズム」「ヘルス・ツーリズム」「アーバン・ツーリズム」「グリーン・ツーリズム」などがある。

 その中で、昨今「コミュニティ・ベースド・ツーリズム」としての観光行動としても注目を浴びている。それはフットパスによる地域づくりである。

 「フットパス(foot path)」は英国で発祥し、発展してきた。字義的には「人や動物(家畜を含む)が頻繁にゆっくり歩く小径、あるいは田舎の小路」と訳されている。

 英国人は自然を愛する国民といわれるが、どの時代でも自然に触れようと人々はウオーキングを愛してきた。そしてそのウオーキングは国家、自治体、環境団体、ボランティア、地域住民によるフットパスの整備によって促進され、今でもレジャースポーツの参加者の最も多い種目となっている。

 しかし、田舎の小径がすべてフットパスというわけではない。英国においてフットパスは正式には「パブリック・フットパス(public footpath)といい、「パブリック」つまり「公衆」の要求と闘いの末に、歩行道が確認され、判例や法律によって「歩く権利」が認められた道、「公衆に開かれた」道、すなわち通行権道のことをいう。

日本でのフットパスの始まり

 では、英国の「歩く権利」としてのフットパスが、その概念が存在しない日本の地域づくりと、どのように接点を持ったのだろうか。

 日本フットパス協会に所属している団体を対象に現地調査、ヒヤリング、ならびにアンケートによる調査を実施し、その展開過程と効果、また課題について分析した。

 そこで明らかになったのは、どの地域もスタート時点では、「英国のフットパス」というものの存在は認識していない、ということだった。

 地域住民の健康、観光者の滞在促進や観光の季節変動の緩和、自然・文化遺産の保全など、それぞれが抱える課題の中で模索することで「歩くこと」を見出し、地域づくりを始めていった。そしてその展開過程で、学識者による「英国のフットパス」の知識が与えられ、その利点を取り入れていった地域もあれば、独自の解釈でその名称を使用している地域もある。

 いわゆる後発隊の地域では、先発隊からノウハウを学んで取り組んでいる。先進事例地域においては、主に中間組織がイニシアティブを取っていて、徐々に住民の意識にも浸透している。彼らは生活空間の中から、貴重な自然、あるいは文化資源を見いだし、それらを線でつないで歩くことでその価値を再認識しようとしている。

フットパスを取り入れる

 フットパスとは自然、動物、人、歴史・文化遺産などさまざまなものと共生を意識しながら歩く道であり、人々の交流の場である。そのためにボランティアガイドと共に歩いたり、縁側カフェと称して民家で休憩しながら郷土料理を楽しんだり、交流する仕掛けを作っている。その道の存在は人々の生活の質を向上させ、地域とその環境を守ろうとする気持ちを育てる。

 フットパスを地域に取り入れるためには、英国のフットパスについての歴史や法律などの知識を取り入れることは大切である。

 それらは直接自分たちの地域とは関連性がないように思えるかもしれないが、共生の道としてのフットパスのもつアメニティを知ること、そして体感することは、真の意味での持続可能なフットパスによる地域づくりをしていく上で不可欠であると考える。また英国がもつ課題も見えてくる。

 フットパスの精神や概念を理解した上で、日本固有の、そして地域の特性を活かした持続可能性を持つまちづくりを生み出していくことが重要である。

著者プロフィール

久保由加里

久保由加里大阪国際大学短期大学部准教授

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