「九州オルレ」にみる宿泊拠点・行為拠点創造の重要性についての考察 経済、観光消費の視点からみるスポーツ観光

辻本千春大阪観光大学観光学部観光学科教授

2014.06.01佐賀県大分県

九州に「オルレ」コースを設置

 スポーツ観光とは「スポーツを観る、する、支える視点から “豊かなスタイルの創造” を目指すものである」といわれている(観光庁、2011)。特に今年はソチオリンピックやブラジルワールドカップが開催され、「観る」スポーツは大きく脚光を浴び、また応援するために海外へ飛び立つ人も多いと予想される。

 ところで、九州観光推進機構が推進している、「九州オルレ(Olle)」という韓国・済州島発祥のトレッキング・コースが脚光を浴びている。2012年の4コースから始まり、2013年4コース、そして2014年も4コースをスタートさせているが、ルールはリボンや指示に従って進む10数キロのコースで、途中からの参加や離脱にも制限はない。

 なかでも2012年から始まった4コース(1次)のうち2コース、大分県・奥豊後コースと佐賀県・武雄コースは人気のあるコースとなっている。どのコースも非常に風光明媚で、観光資源も多く資料等を見ると遜色はない。ただ、ヒアリングをしてコースを歩いてみる(2013年9月)と、コースの組み方により観光消費に差があることがわかった。

 まず、2012年3月から2014年3月までで一番人気があったのは奥豊後コースで(韓国人6,500人、日本人3,220人(注1))、ほぼ直線のコースで標高も200mぐらいのところを進むため、韓国人の観光客の間では口コミで人気が高い(九州観光推進機構、2014)。

 ただ、出発点は無人駅で、小さな案内所・売店はあるが飲食や土産物を選んで買うことは難しい。さらに林道を歩くため、終点周辺を除いて飲食店はおろか自動販売機もないために観光消費ができないコースとなっている。

 筆者は「ヘルスツーリズムの展開における拠点と要因に関する一考察―天草と室戸の事例からー」(辻本、2012)でスポーツ観光等を含む広義のヘルスツーリズムにおける拠点の重要性を論じたが、まさにこのケースでは宿泊拠点は別府温泉で、オルレを楽しみ(行為拠点)その後別府市等に戻るケースが多いといわれている。つまり、宿泊も含め豊後大野市や豊後竹田市での観光消費が非常に少ないと考えられる。

先進地韓国の地域振興型コース

 片や武雄コース(韓国人6,340人、日本人3,920人)はまち中の武雄温泉駅をスタートし、円を描くように武雄市内を回るコース取りをしており、コースを一歩外れると飲食店や土産店も多く存在している。出発点の駅には九州駅弁NO.1の「佐賀牛弁当」も販売されており、非常に効果的に観光消費ができるようになっている。

 さらにコースの途中には大型ショッピングセンターもあり、休憩をかねて買い物もできる。そして終点は武雄温泉街で、そこに宿泊しなくても温泉利用や足湯体験もでき、コンパクトなコース設計となっている。

 直近の5カ月間では武雄コースの方が約400名参加者が多い。地域活性化という視点では、武雄市内の旅館あるいは駅を拠点として、行為拠点も市内循環型になっている点で持続可能な「地域振興型オルレコース」といえる。

 日本、あるいは九州全体としては外国人観光客が増えることは等しくありがたいことである。ただ、自治体はそれぞれの人口を抱えており、自治体に落ちる観光消費が増えて税金を多く徴収できることが重要であるならば、武雄コースは地域活性化の視点から非常に戦略的に優れていると思われる。

 筆者はスポーツ観光も持続可能が原則で、地域活性化や雇用につながる必要があると考えている。武雄市の事例は観光による地域活性化を目指す地域にとって大きな示唆に富んでいる。

注1:個人客も含めると数字は倍になると思われる。

[参考文献]
辻本千春(2012)「ヘルスツーリズムの展開における拠点と要因に関する一考察‐天草と室戸の事例から‐」『日本国際観光学会論文集(第19号)』(pp.83-89)
九州観光推進機構(2014)『九州観光推進機構プレスリリース』4月15日
観光庁(2011)『スポーツ・ツーリズム推進基本方針』スポーツ・ツーリズム推進連絡会議

著者プロフィール

辻本千春

辻本千春大阪観光大学観光学部観光学科教授

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