訪日外国人観光客の緊急医療 ―求められる、地域の状況に応じた連携構築・体制整備―

岡村世里奈国際医療福祉大学大学院准教授

2018.03.27

 地域の関係者が集まり、円滑な連携のできる関係をつくる

 具体的には、例えば、前ページ①のように外国人観光客が自分の症状に応じた医療機関を見つけるのが困難であれば、地元の行政機関や観光関係者、医療機関間で相談して、外国人観光客に配布しているフリーペーパーアプリに観光情報に加えて、地元の医療機関や薬局の基本情報や受診方法に関する情報などを加えれば、それだけでも状況は違ってくるであろう。

 また、③のように海外旅行保険に入っておらず医療費を支払えない外国人観光客が多いのであれば、地元で実施している訪日プロモーションの際に必ず海外旅行保険加入促進のための啓蒙活動をあわせて行うようにしたり、国内外の観光関係者に協力してもらい、海外旅行保険付きの観光商品の開発に力を入れてもらうなどして海外旅行保険の加入率が向上すれば、結果的に外国人観光客も医療機関も助かることになる。
(なお、余談になるが、海外で販売されている海外旅行保険商品の中には、補償上限額が数十万円程度であったり、補償範囲が非常に狭くて、いざというときにあまり役に立たないものも少なくない。そのため、海外旅行保険加入促進に向けて啓蒙活動等を実施する際には、望ましい補償内容や額についてもあわせて紹介しておくとよいであろう。)

 さらに例えば、鹿児島県のある地域では、最近、クルーズ船の入港が増えたことにより、クルーズ船内で体調を崩した外国旅行者の緊急医療が問題となったことから、船舶代理店や医療機関、英語や中国語の医療通訳会社、航空会社、行政機関の各担当者が集まって、円滑な連携関係を構築するための話し合いを行っている。このように当事者が実際に集まって、外国人観光客の緊急医療に伴う具体的な情報のやり取りや手続きはもちろんのこと、それぞれの事情や課題等について話し合って解決策を検討していくことは、やはり非常に有効といえよう。

 外国人観光客の緊急医療の問題は今後ますます大きな問題になってくることが予想される。ぜひ今のうちに、地域の行政機関、観光関係者、医療関係者等で協力し合いながら、地域の状況に応じた外国人観光客の緊急医療体制の在り方について検討していただければと思う。

著者プロフィール

岡村世里奈

岡村世里奈国際医療福祉大学大学院准教授

上智大学大学院法学研究科博士前期課程修了。1999年国際医療福祉大学入職後、講師、The Beazley Institute Health Law and Policy, School of Law, Loyola University of Chicagoの客員研究員などを経て、2012年から国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野、2017年からは同大学院医療通訳・国際医療マネジメント分野の准教授を兼務。厚生労働省研究班の国際医療交流事業の基礎研究をはじめ、国内外の国際医療交流事業研究に携わる。

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